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2016年9月

  • 2016年9月29日
  • 2020年12月7日

探し物

東京都 会社員 吉田仁美(28)(仮名) 今から2年くらい前の話です。 その日は高校の同窓会があり、久しぶりの旧友との再会で、皆、かなり盛り上がり、帰りの電車は終電ギリギリになってしまいました。 私の家は、最寄りの駅から徒歩20分ほどかかるため、帰りの時間が遅くなると、いつも駅からタクシーを拾って帰っていたのですが、その日はどういうわけか、客待ちのタクシーが1台もいませんでした。 大通り沿いの歩道を選んで歩けば車の通りも多く、途中コンビニなどもあり、決して真っ暗で怖いようなところはありません。 そこで私は酔い覚ましに、家まで歩いて帰ることにしました。 家 […]

  • 2016年9月11日
  • 2020年12月7日

秘湯の狸

京都府 無職 和田俊彦(68)(仮名) 私の趣味は秘湯巡りです。 若い頃から温泉が好きで、20代後半からは会社の休日を利用して、月に2回は日本中の温泉に出かけていました。 30代後半になると、その趣味も佳境に入り、普通の温泉では飽き足らなくなり、いわゆる秘湯と呼ばれるような温泉を探して出かけることが多くなりました。 その当時はGPSやインターネットなどない時代です。 私はもっぱら図書館などで基本的な情報を収集し、現地で地元の人から聞いた話などを参考にしながら、地図とコンパスを頼りに山奥に分け入るという、まさにサバイバルな秘湯探検でした。 ある年の9月の3 […]

  • 2016年9月11日
  • 2020年12月7日

隙間

茨城県 薬剤師 安並正夫(32)(仮名) 2年の浪人の後、やっとの思いで入った東京の大学で、薬剤師になる夢に向かって勉強していた頃の話です。 生まれて初めての一人暮らしは、築30年の古いアパートからスタートしました。 閑静な住宅街の中でもひときわ古びたそのアパートは、畳の和室が1部屋に小さなキッチンと、ユニットバスが付いていました。 居間の押し入れの襖(ふすま)は、建物がゆがんでいるせいなのかキチンと閉まらず、常に指一本分くらいの隙間が空いていて、その手前の畳には大根を2本並べたようなシミがあり、手で撫でると少し窪んでいるような気がしました。 このシミに […]

  • 2016年9月11日
  • 2020年12月7日

のぞくなキケン

岐阜県 中学2年生 鹿島正(13)(仮名) とても短い話です。 僕が中学生の時、近所に変わったおじさんが住んでました。 そのおじさんは庭で焚き火をしたり、家の中からクサイいニオイを出したり、時々大きな声を出したりするので、近所の人たちから嫌われていました。 その家をぐるりと1周取り囲んでいる木の塀には、1ヶ所だけ、節が抜けた穴があって、その下に赤いペンキで「のぞくなキケン」と書いてありました。 ウワサでは、おじさんが塀の穴から誰かにのぞかれるのを警戒して、暇さえあればその穴に向かって、先端をヤスリで削って尖らせた、1.5メートルほどの鉄の棒を両手で持って […]

  • 2016年9月11日
  • 2020年12月7日

七五三

千葉県 主婦 田中なみ(36)(仮名) 結婚して間もない頃、主人の父が亡くなったことをきっかけに、主人の母と同居することになりました。 正直、初めは少し不安でしたが、いわゆる嫁と姑の確執もなく、むしろ、早くに実の母を亡くした私の方が、義母のことを本当の母のように慕っていたくらいでした。 それから数年後、私は待望の女の子を授かりました。 娘の「沙希」という名前は義母がつけてくれたもので、私もこの名前の字と響きが気に入っていました。 義母は娘を可愛がり、目の中に入れても痛くないという例え話は本当なんだと思うほど、娘を溺愛しました。 その娘が2歳になったばかり […]

  • 2016年9月11日
  • 2020年12月7日

気がきく彼女

東京都 大学生 佐藤雅信(21)(仮名) 俺には毎年更新し続けている記録があります。それは、『彼女いない歴』です。 岐阜の田舎町から2浪の末、「モテそう」という幻想から東京のミッション系の大学に入り、憧れの一人暮らしと花のキャンパスライフを夢見ていましたが、現実はそう甘くはありませんでした。 入学と同時にスポーツ系のサークルに入ったのですが、そこはいわゆるチャラ系のサークルで、金曜になるとほぼ隔週で合コンが開催されました。 元来、女性が苦手というわけではないのですが、この金曜の恒例行事は、全くモテない俺にとって、単なる苦役でしかありません。 当時、学費と […]

  • 2016年9月10日
  • 2020年12月7日

目の前にいる

埼玉県 会社員 相沢実(31)(仮名) 自分で言うのも何ですが、私はいわゆるメガネデブです。 そもそも大食漢だったのですが、学生時代は運動部でしたので、食べた分以上のカロリーは消費していたため、それほど太ってはいませんでした。 ところが、社会人になってからというもの、ほとんど運動しなくなったにもかかわらず、食欲だけは学生時代のままで、就職して8年で、30キロ以上太ってしまいました。 太ったことで意外と一番困っていたのが、メガネです。 冬場、暖かい部屋から寒い外に出ると、メガネが曇ることは誰にでも経験があると思いますが、私の場合、尋常じゃないくらい、メガネ […]

  • 2016年9月9日
  • 2020年12月7日

隠し部屋

愛知県 会社員 山田真紀(26)(仮名) 私がまだ、会社の社宅に住んでいた頃の話です。 そこは古いマンションでしたが、女性社員専用で、管理人さんも常駐していたので、就職を機に初めての一人暮らしだった私でも、安心して暮らすことができました。 私の部屋は1階だったので、上の階よりも家賃が安く、生活も便利な場所だったので、これといって不満はありませんでしたが、唯一の欠点は、私の部屋のお隣りさんが、毎晩、ある決まった時間になると「ドンドンドンッ!」と必ず3回、部屋の壁を叩くような音を出すことでした。 ただ、社宅ということは当然、そのお隣りさんも同じ会社に勤めてい […]

  • 2016年9月9日
  • 2020年12月7日

真の経営者

栃木県 会社員 早川信治(45)(仮名) かれこれ20年以上も前の、就職活動の時の話です。 当時は今よりもずっと早い時期に、就職活動が始まっていました。 大学3年生の冬、大手メーカーの書類選考と筆記試験で奇跡的に残った私は、一次面接のため、本社の面接会場にいました。 バブル景気などとっくの昔にはじけていた当時は、いわゆる就職氷河期の始まりとも呼ばれる時代でした。 ましてや中堅とも言われない大学で、成績も中の中程度の私が、大手企業の一次面接にまでたどり着けるのは、奇跡と言っても過言ではありませんでした。 その面接会場で、偶然、高校時代の友人であるY君と再開 […]

  • 2016年9月8日
  • 2020年12月7日

生存率

栃木県 会社員 恩田隼人(54)(仮名) 「ステージ4ですね。5年生存率は5%ほどです。」 医者に事務的に告げられたのは、42歳の春でした。 忙しさを理由に、のらりくらりと健康診断をサボってきた私は、去年の冬、とうとう会社の上司に叱責され、イヤイヤ検診を受けたのですが、異常が認められたため、再検査となったのです。 様々な精密検査の後、待っていたのは、まさかの胆管ガンという診断と、「5%」という、虚しい数字でした。 「なんで俺が? 仕事も家庭も順調だった。自分で言うのもなんだけど、他人には優しく接してきたし、子供が出来てすぐにタバコもやめた。その俺が一体何 […]

  • 2016年9月3日
  • 2020年12月7日

乗れないエレベーター

東京都 会社員 中田正樹(31)(仮名) 「はぁ・・・またかよ・・・」 私が住むマンションのエレベーターは、雨の日に限って調子が悪いのです。 築30年のこのマンションに越してきたのは、去年の春のことでした。 以前は会社まで片道1時間近くかけて通勤していたのですが、毎朝のラッシュと往復の2時間が無駄に思え、会社近くの都心に住むことに決めたのです。 予算的には新築・駅近という訳にはいきませんでしたが、このマンションは地下に駐車場もあり、間取りや収納など、古いながらも理想的な条件が揃っていました。 さらに、このマンションの裏手にはお寺があり、建物の壁を隔てた向 […]

  • 2016年9月3日
  • 2020年12月7日

大切な人形

東京都 大学生 森下浩美(21)(仮名) 私が小学校2年生の時、祖母が病気で亡くなりました。 祖母は初孫だった私をとても可愛がり、大切にしてくれました。私はそんな祖母が大好きでした。 私が生まれてすぐ、祖母は大きな人形を買ってくれました。 フランス人形のようなドレスを着た女の子の人形は、物心ついた時から私の大のお気に入りで、親友のような存在でした。 祖母が亡くなる前日、私はいつものように、大切な人形を持って入院中の祖母のお見舞いに行きました。 祖母は病院のベッドの上で私を抱き寄せ、私が抱いていた人形の頭を優しく撫でながら、 「おばあちゃんは、いつでも浩美 […]

  • 2016年9月3日
  • 2020年12月7日

公園の女の子

埼玉県 保育士 荒井美佳(26)(仮名) 当時、私は保育士になるため、大学に通っていました。 大学は駅から徒歩10分ほどで、途中にある小さな公園を斜めに抜ければ、少しだけ近道ができます。 ただ、建物と植栽に挟まれたその公園は昼間でも薄暗く、とても陰気で、以前、焼身自殺があったとか、夜は痴漢が出るといった噂もありました。 その上、園内の遊具も、駅側の入り口を入って右奥の死角に、赤いブランコがポツンと2つあるだけで、子供が遊んでいる姿など、ほとんど見たことがありませんでした。 だから私も、その公園を抜けるのは、どうしても講義に遅刻しそうな昼間だけ。そう決めて […]

  • 2016年9月3日
  • 2020年12月7日

何でもご相談ください

栃木県 会社経営 清川浩二(38)(仮名) 自分で言うのも何ですが、私は子供の頃から手先が器用で、要領も良く、何でも上手くこなすタイプでした。また、これも昔からですが、頼まれたら絶対に嫌とは言えない性格でしたので、損な役回りを演じたことも沢山ありました。 以前勤めていた会社にとって、そんな私は使いやすい、便利な従業員だったのでしょう。要領の悪い同僚の分まで仕事を押し付けられ、サービス残業が続き、心身ともに疲労困ぱいの毎日で、私はいわゆる器用貧乏の見本のような存在でした。 30歳を過ぎた頃、そんな会社(というより自分)に嫌気がさし、その会社を辞めてしまいま […]