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2016年9月

探し物

東京都 会社員 吉田仁美(28)(仮名) 今から2年くらい前の話です。 その日は高校の同窓会があり、久しぶりの旧友との再会で、皆、かなり盛り上がり、帰りの電車は終電ギリギリになってしまいました。 私の家は、最寄りの駅から徒歩20分ほどかかるため、帰りの時間が遅くなると、いつも駅からタクシーを拾って帰っていたのですが、その日はどういうわけか、客待ちのタクシーが1台もいませんでした。 大通り沿いの歩道を選んで歩けば車の通りも多 […]

秘湯の狸

京都府 無職 和田俊彦(68)(仮名) 私の趣味は秘湯巡りです。 若い頃から温泉が好きで、20代後半からは会社の休日を利用して、月に2回は日本中の温泉に出かけていました。 30代後半になると、その趣味も佳境に入り、普通の温泉では飽き足らなくなり、いわゆる秘湯と呼ばれるような温泉を探して出かけることが多くなりました。 その当時はGPSやインターネットなどない時代です。 私はもっぱら図書館などで基本的な情報を収集し、現地で地元 […]

隙間

茨城県 薬剤師 安並正夫(32)(仮名) 2年の浪人の後、やっとの思いで入った東京の大学で、薬剤師になる夢に向かって勉強していた頃の話です。 生まれて初めての一人暮らしは、築30年の古いアパートからスタートしました。 閑静な住宅街の中でもひときわ古びたそのアパートは、畳の和室が1部屋に小さなキッチンと、ユニットバスが付いていました。 居間の押し入れの襖(ふすま)は、建物がゆがんでいるせいなのかキチンと閉まらず、常に指一本分 […]

のぞくなキケン

岐阜県 中学2年生 鹿島正(13)(仮名) とても短い話です。 僕が中学生の時、近所に変わったおじさんが住んでました。 そのおじさんは庭で焚き火をしたり、家の中からクサイいニオイを出したり、時々大きな声を出したりするので、近所の人たちから嫌われていました。 その家をぐるりと1周取り囲んでいる木の塀には、1ヶ所だけ、節が抜けた穴があって、その下に赤いペンキで「のぞくなキケン」と書いてありました。 ウワサでは、おじさんが塀の穴 […]

七五三

千葉県 主婦 田中なみ(36)(仮名) 結婚して間もない頃、主人の父が亡くなったことをきっかけに、主人の母と同居することになりました。 正直、初めは少し不安でしたが、いわゆる嫁と姑の確執もなく、むしろ、早くに実の母を亡くした私の方が、義母のことを本当の母のように慕っていたくらいでした。 それから数年後、私は待望の女の子を授かりました。 娘の「沙希」という名前は義母がつけてくれたもので、私もこの名前の字と響きが気に入っていま […]

気がきく彼女

東京都 大学生 佐藤雅信(21)(仮名) 俺には毎年更新し続けている記録があります。それは、『彼女いない歴』です。 岐阜の田舎町から2浪の末、「モテそう」という幻想から東京のミッション系の大学に入り、憧れの一人暮らしと花のキャンパスライフを夢見ていましたが、現実はそう甘くはありませんでした。 入学と同時にスポーツ系のサークルに入ったのですが、そこはいわゆるチャラ系のサークルで、金曜になるとほぼ隔週で合コンが開催されました。 […]

目の前にいる

埼玉県 会社員 相沢実(31)(仮名) 自分で言うのも何ですが、私はいわゆるメガネデブです。 そもそも大食漢だったのですが、学生時代は運動部でしたので、食べた分以上のカロリーは消費していたため、それほど太ってはいませんでした。 ところが、社会人になってからというもの、ほとんど運動しなくなったにもかかわらず、食欲だけは学生時代のままで、就職して8年で、30キロ以上太ってしまいました。 太ったことで意外と一番困っていたのが、メ […]

隠し部屋

愛知県 会社員 山田真紀(26)(仮名) 私がまだ、会社の社宅に住んでいた頃の話です。 そこは古いマンションでしたが、女性社員専用で、管理人さんも常駐していたので、就職を機に初めての一人暮らしだった私でも、安心して暮らすことができました。 私の部屋は1階だったので、上の階よりも家賃が安く、生活も便利な場所だったので、これといって不満はありませんでしたが、唯一の欠点は、私の部屋のお隣りさんが、毎晩、ある決まった時間になると「 […]

真の経営者

栃木県 会社員 早川信治(45)(仮名) かれこれ20年以上も前の、就職活動の時の話です。 当時は今よりもずっと早い時期に、就職活動が始まっていました。 大学3年生の冬、大手メーカーの書類選考と筆記試験で奇跡的に残った私は、一次面接のため、本社の面接会場にいました。 バブル景気などとっくの昔にはじけていた当時は、いわゆる就職氷河期の始まりとも呼ばれる時代でした。 ましてや中堅とも言われない大学で、成績も中の中程度の私が、大 […]

生存率

栃木県 会社員 恩田隼人(54)(仮名) 「ステージ4ですね。5年生存率は5%ほどです。」 医者に事務的に告げられたのは、42歳の春でした。 忙しさを理由に、のらりくらりと健康診断をサボってきた私は、去年の冬、とうとう会社の上司に叱責され、イヤイヤ検診を受けたのですが、異常が認められたため、再検査となったのです。 様々な精密検査の後、待っていたのは、まさかの胆管ガンという診断と、「5%」という、虚しい数字でした。 「なんで […]