岐阜県 鹿島正さん(10代・中学生)の恐怖体験談
とても短い話です。ただ、うちの近所で本当にあったことです。
僕が中学生の頃、家の近くに、ちょっと変わったおじさんが住んでいました。
庭で焚き火をする。家の中から得体の知れないニオイを漂わせる。誰もいないはずの敷地から、突然大きな声をあげる。理由はわからないんですが、とにかくそういう人で、近所ではほとんど誰からも避けられていました。
そのおじさんの家には、木の塀がぐるりと一周巡らせてあって、そのうちの一箇所だけ、節が抜けて丸い穴が開いていました。
穴の下には、赤いペンキで手書きの文字。
「のぞくなキケン」
子供心に、それが妙に引っかかっていました。誰が書いたのか、いつから書いてあるのか。誰も教えてくれないのに、みんな知っている。そういう類の穴でした。
近所ではこんな噂がありました。おじさんはその穴から誰かに覗かれることを、ひどく警戒しているらしいんです。だから暇さえあれば、先端をヤスリで尖らせた一.五メートルほどの鉄の棒を両手に持って、穴の内側でじっと構えている、と。
もちろん、ただの噂です。誰も本当に見たわけじゃありません。誰かの家の誰かが言っていた、というだけの話。
でも、その「もしかしたら本当かもしれない」という空気だけが、塀の穴の周りにずっと漂っていました。
ある日の学校帰り、僕は友達と、いつものようにその塀の前を通りかかりました。
友達が「やめとけって」と、僕の腕を軽く引きます。
その時の僕は、それがどうしてか妙に面白く思えて。
「大丈夫だって」
そう言って、友達の手を振りほどきました。
穴の高さに顔を近づけます。片目を閉じて、もう片方の目を、丸い穴にそっと合わせました。
暗い。
最初はそれだけでした。庭の様子も、家の輪郭も、うまく像を結びません。
目を凝らします。
――何か、いる。
穴のすぐ向こう側に、人影がありました。動かない。こちらを、じっと見ている。
待ち構えていたんです。
気づいた瞬間、その影がぐっと動きました。
僕の目に向かって、まっすぐに。
突き刺すように。
鉄の棒が、穴のすぐ上の塀を突き破って飛び出してきました。
先端が僕の額に食い込みます。
そのまま止まらず、頭蓋骨に穴を開け、脳の中を掻き分けるようにズブズブと奥へ進んでいって、後頭部の骨まで砕いて、頭を貫通しました。
僕はそのまま、死にました。
――たぶん、夢だと思います。


