東京都 笹森大吾さん(40代・会社経営)の恐怖体験談
今から4年前、私は路上で夜を明かしていました。
飲食店の2店舗目を出したのが失敗のはじまりです。借金を作り、住む場所を失い、気づけば半年ほど、いわゆるホームレス生活を送っていました。最初はホテル、それが安宿になり、サウナになり、漫画喫茶になり――貯金を切り崩すたびに寝床の質は下がっていって、あっという間に底をつきました。一ヶ月ほど経った頃には、都内のとある公園で、人目を避けながら寝泊まりするようになっていたんです。
「俺も、落ちるところまで落ちたな」
そう思いながら過ごすうち、数ヶ月があっという間に過ぎていきました。
生活が始まった頃はまだ残暑が厳しく、虫との戦いでした。でもそれもすぐに終わって、次にやってきたのは寒さです。経験のあるホームレスの人たちは、冬に備えて防寒着や毛布を早めに揃えておくものだと、後になって知りました。私はまったくの初心者で、本格的な冬を前に、どこで何を調達すればいいのかも分からないまま、漫然と日々を過ごしてしまいました。
その日は、季節外れなほど底冷えする夜でした。
深夜、2時頃だったと思います。寒さのせいか、急にトイレに行きたくなりました。
公園の夜間トイレというのは、独特です。防犯灯だけが灯っていて、そこだけ周囲から浮かび上がって見える。設備自体は割ときれいなんですが、中学生か高校生くらいの若者がたむろしていることがあって、ホームレス仲間もそこを怖がり、夜中はできるだけ近づかないようにしていました。
明るくなるまで我慢しようか、とも思ったんです。でもさすがに限界で、意を決してテントを出ました。
テントは立入禁止の植え込みの奥に隠すように張っていたので、最短でトイレに向かうには、真っ暗な木立の間を縫って歩くしかありません。
少年たちの声がしないか、誰か人がいないか。それだけを気にしながら、落ち葉を踏んで、ザク、ザクと森の中を進んでいきました。
すると、森の奥に、ぼんやりとした明かりが見えたんです。
「ん? 何の明かりだろう」
高さは、地面からちょうど私の胸くらい。その位置だけで、防犯灯の類でないことはすぐに分かりました。
目を凝らすと――フワッ、フワッ、フワッ。
青白い光が、点滅しているように見えました。
「なんだ、あれ……」
懐中電灯でも自転車のライトでもない。大きさはメロンくらいでしょうか。
正直、怖いという気持ちより、見たことのないものへの好奇心が勝っていました。私はそちらへ足を向けました。
近づいてよく見ると、点滅しているわけではないと分かりました。球体の縦半分が光っていて、反対側は光っていない。それがクルクルと回転しているせいで、点滅しているように見えていただけだったんです。
正体を確かめようと、さらに歩を進めました。
あと2、3メートル。
そこで、分かりました。
光って見えていたのは、黒い学ラン姿に学帽をかぶった、中学生くらいの少年の顔でした。生気のない、青白い顔。
少年は地面から少し浮いた状態で、ピシッと敬礼の姿勢を取ったまま、音もなく、クルクルと回っていました。
――声を出しちゃダメだ。
とっさにそう思いました。後ろに手を伸ばし、逃げ道を探りながら、ゆっくりと後ずさりを始めます。
その瞬間でした。
やや上を向いて回っていた少年の動きが、ピタッと止まりました。敬礼の姿勢のまま、ギョロッと、こちらを睨みつけたんです。
私は木々の間を無我夢中で走り抜け、自分のテントに転がり込みました。
その夜はもちろん一睡もできず、凍えながら、ただ夜が明けるのを待ち続けました。
朝が来て、昨晩の恐怖から少し解放された頃――公園には親子連れの姿が増え、昼前らしい賑わいが戻っていました。
昨晩のあれは、一体何だったんだろう。もう一度あの場所を見に行ってみようか。そんなことをぼんやり考えていた時です。
テントに、人の気配がしました。
顔を上げると、そこに立っていたのは、二十年以上音信のなかった友人でした。
彼は私の窮状を聞きつけて訪ねてきてくれて、新しいビジネスの立ち上げに誘ってくれました。それから先も、偶然の一言では片付けられないほどの幸運が続きました。今ではそのビジネスも軌道に乗り、私はようやく、元の生活を取り戻すことができています。
それにしても、あの夜の出来事は一体何だったのか。
寂しそうな目をした、青白く光る少年のうつろな表情。あれは今でも、私の中にはっきりと残っています。
今になって思うことがあります。あの子は、私にとっての座敷わらしか、あるいは幸運の天使だったのかもしれません。


