滋賀県 南場真凜さん(10代・高校生)の恐怖体験談
これは、私がまだ幼稚園に通う前ですから、3歳か4歳くらいの頃の話です。
当時、両親は農業をしていて、毎日とても忙しくしていました。 幼い私の面倒をみてくれていたのは、もっぱら同居していた祖母です。
でも、繁忙期にはその祖母も畑仕事を手伝わなければならず、そんな時、私の遊び相手になってくれていたのは、お姉ちゃんでした。
古くて広い家の中で、かくれんぼや鬼ごっこをしたり、庭で虫を捕まえたり、お花を摘んだり。 お姉ちゃんとは、いつもそうやって遊びました。
少し歳が離れていたせいか、お姉ちゃんはとても優しくて、私のことを「なっちゃん、なっちゃん」と呼んで、可愛がってくれました。
私はそんなお姉ちゃんが大好きで、ケンカをしたことも、言い争いをしたことも、一度もありません。 幼い私の目にも、お姉ちゃんはとてもキレイで――私にとっての、憧れの存在でした。
そのお姉ちゃんとの思い出の中で、一番はっきり覚えているのは、ある日、母屋の階段のあたりに、突然現れた女の人のことです。
その日、私はお姉ちゃんと二人で、母屋の中を追いかけっこしながら走り回っていました。
お姉ちゃんが勢いをつけて、黒光りする廊下の板の上をスーッと滑って見せてくれました。 私も真似したくて何度か挑戦したのですが、うまく滑れません。
「靴下、履いてみたら?」
お姉ちゃんにそう言われて、二階の洋服ダンスまで靴下を取りに行こうとした時です。
階段の上に、白い着物を着た女の人が立っていました。
逆光で表情まではわかりません。 それでも、真っ黒な長い髪と、真っ白な足袋だけは、はっきりと目に焼き付いています。
階段の下からその姿を見上げていると、女性はゆっくりと降りてきました。
「この人、だれだろう・・・」
まだ幼かった私は、特に怖いとも思っていませんでした。 むしろ、その人がどいてくれないと、階段を上って靴下を取りに行けないことの方が、気になっていたくらいです。
そうやって、初めて見るその女性をじっと見つめていた時でした。
いつの間にか私の後ろに立っていたお姉ちゃんが、突然叫びました。
「なっちゃん! それ、幽霊やで!!」
その一言で、私の中の「怖い」という感情が、一気に爆発しました。
お姉ちゃんと手を繋いで、廊下を全速力で走り抜けて――階段から一番遠い和室の、押入れの中に逃げ込みました。
二人で抱き合って、ブルブル震えていました。 それでも、お姉ちゃんと一緒にいるという心強さがあって、なんだか少し楽しくて笑ってしまいそうな、それでいてやっぱり怖いような、複雑な気持ちでした。
じっと息を殺して、しばらくしてから押入れの襖を少しだけ開けて、隙間から部屋の様子を窺いました。
あの女性の姿は、もうどこにもありません。
意を決して、そーっと襖を開けました。 ふたりでぴったり寄り添いながら押入れを出て、柱の陰から、女性がいた階段の方を覗いてみると――そこにも、もう誰もいませんでした。
「これはママに言わなきゃ!」
そう思った私は、母屋の裏で畑仕事をしている母のところまで走りました。 たった今お姉ちゃんと二人で幽霊を見たことを、拙い言葉で、それでも一生懸命に説明しました。
母は手拭いで手を拭きながら、私の正面にしゃがみました。 両肩をそっと持って、私の目をじっと見つめながら、ゆっくりと諭すように話し始めました。
「なっちゃん・・・あなたのお姉ちゃんはね、あなたが生まれる前に亡くなっているの。だから、今はもう、いないのよ」
その瞬間、私はハッと気づきました。
そういえば、お姉ちゃんと一緒にご飯を食べたことも、お風呂に入ったことも、一緒に寝たこともありません。
幼かった私は、そのことを、特におかしいとも思っていなかったのです。
それからというもの、階段の幽霊は何度か姿を現しました。
でも、大好きだったお姉ちゃんは――その日を境に、二度と出てきてくれませんでした。


