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人の執念

人の執念

千葉県 中本修司さん(20代・会社員)の恐怖体験談

私が高校生だった頃の話です。 帰り道、いつもの踏切がなかなか開かなくて、少しイライラしていました。 まさかその苛立ちが、あんな夜に自分を導くことになるとは、思ってもいませんでした。

その日は部活が長引いて、帰宅がいつもより遅くなっていました。辺りはすっかり暗くなっていました。

自宅マンションの手前の踏切が開くのを、自転車に乗って待っていたんですが、なかなか遮断機が上がりません。

しばらくすると、線路内の敷石の上をザクザクと走りながら、何やら大声で叫ぶ男性の声が聞こえてきました。

締まりっぱなしの遮断機の両サイドには、次第に大勢の人が集まってきました。心配そうに線路の中を覗いたり、口々に何かを話したり。

聞き耳を立てると、どうやら誰かが線路内に入って、電車に轢かれたらしいのです。

私の家は、この踏切を渡ってすぐの、線路に隣接するマンションでした。踏切から見える位置にあります。

あと一歩のところで、長時間待たされました。喉の渇きと空腹も手伝って、少しイラッとしてきた私は、いつ開くか分からない踏切を待つより、グルっと回って別の踏切を渡り、遠回りして帰ることを選びました。

やっとの思いでマンションの敷地にたどり着き、脇の駐輪場に自転車を停めました。

いつもならマンションの周りをぐるっと回って正面玄関まで行き、エレベーターに乗るんですが、その時は一刻も早く家に帰りたくて、駐輪場のすぐ横の外階段を使うことにしました。自宅のある3階まで、歩いて上がろうと思ったんです。

外階段を上がろうと、手すりに手をかけた、そのときです。

何か、ヌルッとした生暖かい感触がありました。

「うわっ!」

思わず声を上げて、手のひらを見ました。

暗くてよく見えません。でも、明らかにベットリと、何かが手のひら全体に付いていました。

少し上がった踊り場の明かりで確認しようと、階段を駆け上がりました。

私の手のひらは、真っ赤に染まっていました。

「!?・・・ 血?・・・」

その瞬間でした。

階段のすぐ脇で、「ヒュッ!」という音がしたかと思うと――

「ドシャッッッッッ!!!」

鈍く大きな音が、響きました。

「上から何か落ちてきた!!」

直感的にそう思った私は、踊り場からそっと地面を見ました。

あらぬ方向に、顔と腕がねじ曲がった女性。

極端に足の短いその人が、ピクピクと痙攣しながら、地面にへばり付いていました。

私の手についた血糊は、あの女性のものだと直感しました。

もう、あまりの恐怖で、声も出ません。

半分腰が抜けそうになりながら、何とか3階の自宅までたどり着きました。玄関にへたり込んだ私は、震える声で母を呼びました。

慌てて駆け寄ってきた母に、事の顛末を伝えました。母は外階段へ確認に向かいましたが、すぐに血相を変えて戻ってきました。

その後は消防や警察が来て、大騒ぎになっていたようです。でも私は、あんなに乾いていた喉のことも、あれほど空いていたお腹のこともすっかり忘れて、とにかく何度も何度も手を洗うことで精一杯でした。

第一発見者として、消防や警察に事情を聞かれました。詳細を整理して話しているうちに、それが幸いしたのか、私はようやく落ち着きを取り戻すことができました。

それから数日が経った頃です。

知人から、一連の事件の詳細を聞いた私は、再び恐怖で愕然としました。

うちのマンションから飛び降りた女性は、その直前――私が長時間待たされた、あの踏切の近くで電車に飛び込んでいたそうです。両足の太ももから先を失った状態で、這ってマンションの階段を登り、屋上から飛び降りた。そう考えられていました。

ところが、司法解剖の結果です。

飛び降りる前に、すでに首と背中の骨が折れていたというのです。

這って屋上まで行けるはずが、ありません。

その上、電車に跳ねられた現場から、マンションの屋上まで延々と続く血液の総量を考えると――

マンションにたどり着くずっと手前で、間違いなく失血死していたはずだというのです。

警察は、電車に轢かれた女性の体を、誰かがマンションの屋上まで運び上げ、そこから落としたのではないかと疑ったようです。

でも、それを証明するだけの確たる証拠は、最後まで見つかりませんでした。

最終的な死因は、「失血及び頸髄・脊髄の損傷」ということになったそうです。

「死んでもまだ、死にたいのか・・・」

人の執念というのは、本当に恐ろしいものだと感じました。

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