静岡県 宇梶佑美さん(20代・フリーター)の恐怖体験談
その日の夕方、私はいつものように、バイト終わりに家の近所の公園のベンチでくつろいでいました。 ただ、それだけの、いつも通りの夕方のはずだったんです。 あの女の子と目が合うまでは。
天気が良くて、暑くも寒くもない快適なこの時期は、夕方から暗くなるまで、スマホで漫画を読みながらゆっくり過ごすのが、私にとって至福のルーティンでした。
まだ明るい時間帯に、子供たちがはしゃぎ回る賑やかな雰囲気も好きです。でも、ちょうど夕食の時間帯になって、少しずつ人が減っていき、日が傾くにつれて次第に静かになっていく。あの雰囲気が、私は一番好きでした。
その日、最後まで公園の中にいたのは、私と1組の親子だけでした。
母親と、姉弟と思われる、幼稚園から小学生くらいの子供が3人。
拙いフォームで投げたボールを取りに走って、また投げる。それを繰り返しながら、楽しそうに遊んでいました。
その姉弟の中で、目を引いたのは、一番背の高い、小学校4、5年生くらいの女の子でした。
女の子は足が不自由なのか、くにゃくにゃとした不思議な足取りで、機敏に走り回る弟たちに追いつこうと、懸命に走っていました。
左右に大きく体を揺らしながら、不自由そうにくにゃくにゃと走る、その女の子。
いつしか私は、その姿に釘付けになっていたのですが、そこでハッと失礼な自分の視線に気づいて、慌ててスマホの漫画に目を戻しました。
しばらく漫画を読みふけっていると、視界の先から、ボールが転がってきました。
同じ体勢を維持したまま、視界の中にそのボールを捉えます。すると、さっきの女の子が、くにゃくにゃとこちらに向かって近づいてくるのを感じました。
転がってきたボールに気づかないフリをしたまま、視界の上のほうにその女の子を感じていると――
やっと追いついたその子は、両手で懸命にボールを拾おうとしています。でも、手も不自由なようで、なかなか拾えません。
(ボール、拾って渡してあげたほうがいいのかな・・・?)
そう思った、次の瞬間でした。
後ろから走ってきた弟が――
女の子の体をスーッとすり抜けて、ボールを拾い、投げたんです。
「えっ!」
私は視力があまり良くないうえに、視界の隅で見たことなので、見間違いかもしれません。
それでも、予想もしなかった展開に、私は思わず視線を上げ、その女の子の顔を見てしまいました。
私と目が合った女の子は、口元にニヤッと笑みを浮かべました。
その表情に、何か得体の知れない違和感を覚えて、私は思わずゾッとしました。
慌てて目を逸らし、手元のスマホを見るフリをしていると、少しずつその女の子が、私のほうへ近づいてくるのを感じました。
「ヤダァ・・・ 来ないで・・・」
私の願いも虚しく、女の子はすぐそばまで近づいてきました。
その足元を見ると、靴の履き方がおかしいように見えました。
目が悪いことに加えて、もう薄暗くなっていたので、何がおかしいのか具体的には分かりません。でも、とにかく違和感だけは、確かに感じました。
女の子の立ち位置から察するに、彼女は完全に私に興味を持っています。今にも話しかけてきそうな雰囲気でした。
そのとき、さっきまで遊んでいたはずの母親と弟たちが、公園の中にいないことに気づきました。
(この子にそのことを言えば、きっと慌てて帰るはず)
そう思った私は、視界の隅にいたその女の子に伝えようと、思い切って顔を上げました。
女の子を、初めて至近距離で見ました。
そのとき、今まで感じていた違和感の理由を、私は知ることになったんです。
ショートカットの髪の毛から覗く耳は――裏側がこちらを向いて、左右逆に付いていました。
そこでハッと気づきました。
靴の履き方が左右反対なんじゃない。
足そのものが、左右逆なんです。つま先が、後ろを向いていました。
あの表情に覚えた得体の知れない違和感の理由は、たぶん、目も左右逆になっていたからです。
「こ・・・ この子・・・ ナニ?」
間違いなく、生きている人ではありません。
恐怖で固まる私に、女の子は言いました。
まるで、小さな子供が靴の左右が正しいかを尋ねるように。
「ねぇ、おねぇちゃん。 これ、合ってる? ねぇ、合ってる?」
小指が外側を向いた両手のひらを、私の前にそっと突き出しながら。
私はもう、一目散にその場から、家まで走って逃げ帰りました。
今度もし、もう一度あの女の子に出会ったら、一言、言ってやろうと思います。
「バカ! あんた全部逆なんだよ!!」


