知らない女

知らない女

神奈川県 会社員 小堀 康平(26)(仮名)

今の彼女と出会ったのは、まだ元カノとの縁が完全には切れていない頃でした。

その頃、私の気持ちは何ヶ月も前に、完全に元カノから離れていて、電話やメールも全て無視することで、自分の気持ちを伝えたつもりでいました。

「このまま放っておけば、いずれあきらめるだろう」

私はそんな風に、高を括っていたのです。

ちょうどそんな時に出会った今の彼女は看護師で、私が友人と呑みに行った時、たまたま隣の席にいたことで知り合い、あっという間に意気投合して、その日の内に付き合うことになりました。

何度かデートを重ねたある日、彼女が私の住むマンションに、初めて泊りがけで遊びに来ることになりました。

彼女が来る前日、部屋の隅々まで徹底的に掃除をして、友人のアドバイス通り、彼女が来た時、簡単に片付けられるものを、わざと少しだけ出しておき、彼女の母性をくすぐる作戦は、ものの見事に成功しました。

初めて食べる彼女の手料理を楽しんだ後、ひとしきりイチャイチャしてから、狭いベッドで仲良く就寝しました。

夜中にLINEの着信があり、うっすらと目を覚ましたのですが、こんな時間に連絡をしてくるのはどうせ元カノだろうと思い、そのままにしておきました。

すると次の瞬間、私は産まれて初めての金縛りを経験することになったのです。

金縛りはウワサで聞くよりもずっと苦しくて、身体が動かないだけでなく、上手く息をすることさえできません。

あまりの苦しさと恐怖で思わず目を開けると、私の胸の上に、知らない女が真っすぐ立っているのが見えました。

「だ・・・ 誰だこいつ? 降りろ! 降りてくれ!!」

心のなかでそう叫びながらも、どこかで会ったことがある気がするその女の記憶をたどりましたが、思い出せません。

かろうじて動く目だけ動かし、横で寝ている彼女の方を見ると、彼女も目を丸くして、私の胸の上に立つ女を見ています!

何とか彼女と意思の疎通を図ろうとしましたが、やはり身体が全く動きません。

改めて胸の上の女を良く見ると、右手の薬指に、俺が以前、元カノにプレゼントした指輪があることに気が付きました。

「お・・・ お前!!」

全身に力を込め、振り絞るようにして声を出すと、胸の上の女は消え、金縛りが解けました。

その後、彼女と2人でベッドから飛び起き、しばらくの間、恐怖で固まっていました。

しばらくして彼女がようやく重い口を開き、さっきの女は一体誰なんだと問いただして来ました。

ただ、確かに右手の薬指には、俺が元カノにプレゼントした指輪がありましたが、顔は全く知らない女です。

それを説明すると彼女は、私のスマホに保存してある、元カノの写真を見せろと詰め寄ってきました。

そんなもの消さずに保存しておいたら、きっと怒られるだろうなと思いながらも、そこは覚悟を決めて、スマホに残っていた元カノの写真を彼女に見せました。

実は彼女は、美容整形外科の看護師で、街ですれ違った人の顔を見て、どこをどう整形しているのかを瞬時に見抜く事ができます。

彼女は元カノの写真を見た瞬間、さっき私の胸の上に立っていた女だと確信したそうです。

その後、元カノの写真はスマホから全部消して、改めて元カノに連絡して、もう気持ちがないことをちゃんと伝えました。

生霊って、整形した顔までそのまま霊になることができないんですね。

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