私だけ

私だけ

愛知県 会社員 清水 雅美(22)(仮名)

私が高校生だった時の話です。

一学期も終わりに近付いた頃、同級生で仲の良い男の子が車の免許を取ったので、夏休みになったらみんなでドライブに行こうと言う事になりました。

参加者はいつものメンバーで、その男の子と私の他、男子が2人と女子1人の合計5人です。

行き先は、以前から噂されていて、一度みんなで行ってみたいねと話していた心霊スポットに決定しました。

そこは山奥の廃屋で、10年ほど前に心中した一家の亡霊が出るという噂があり、誰が言ったのかは分かりませんが、「出現率99.99%」とのことでした。

カーナビでは上手く検索できなかったので、ネットで調べたあやふやな情報を頼りに、国道から山道に入り、しばらく進むと、次第に道が細くなり、みんな少し不安になってきました。

そもそもドライバーは、免許を取ったばかりの超初心者です。

これ以上道が細くなると、運転して帰る自信がないと言い始めたので、山道沿いの待避所に車を停め、私たちは渋々そこで車を降りて、目的地まで歩いて行くことになりました。

ところが、どうやらその道さえも間違っていたようで、いくら歩いても目的の廃屋にたどり着きません。

蒸し暑い夏の夜に、道はますます細く険しくなり、これ以上山道を歩くのは無理だと言う男子達の弱音が漏れ始め、私たちはやむなく途中で引き返すことになりました。

山道を下っていく途中、メンバーの一人が、右側の崖の下にポツンと一軒の家があるのを発見しました。

行く時には気付かなかったその家は、持っていたライトがたまたま屋根に当たった事で、辛うじて見つけることができたのですが、電気も消え、ひっそりと静まり返っていて、人の気配が全くしません。

私たちは、新しい心霊スポットを開拓したのではないかと色めき立ち、早速その家に行ってみることにしました。

さすがに崖を滑り降りる訳には行かないので、しばらく山道を下りながら、その家に繋がる道を探していると、ちょうど私たちが車を停めた待避所の向かい側に、草木に覆われた道の入り口がある事に気付きました。

男子達を先頭に、生い茂る草木や蜘蛛の巣を、拾った枝で払い退けながら20分ほど歩いたその先に、暗闇と静寂に包まれてたたずむその家は、何とも言えない不気味なオーラを放っていました。

他に道があるようには見えませんでしたので、おそらく今通って来たこの道が、この家の住人の生活道路です。

あれほどの草木が生い茂り、蜘蛛の巣だらけだったと言うことは、かなり長い間、この家に近付いた人はいないと言う事になります。

それでも、万が一この家に住人がいて、不法侵入で警察に通報でもされたら、シャレになりません。

そこで、少し離れた場所から、男子たちが

「すいまっせーん! だれかいますかー?」

と何度か声をかけました。

少しでも反応があれば、道を間違えたふりをするか、みんなで一斉に逃げるか迷っていましたが、やはり家の中からは一切反応がありません。

みんなで絡み合うようにして建物の周囲をぐるっと周り、正面玄関と思われる引き戸の前に立ち、念のためもう一度

「すいまっせーーーん!」

と声をかけ、間違いなく誰もいないと確信すると、男子の一人が、玄関の引き戸を音を立てないように、ゆっくりと20センチほど開けました。

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