神奈川県 寺田理奈さん(20代・会社員)の恐怖体験談
3年前の夏のことです。同棲していた彼氏のケンジと、バイク好きの友人ふたりが、いつも通りツーリングに出かけた、ただの土曜日でした。 私は少し気分が悪くて、留守番することにしたんです。 それだけのはずだったのに、あの日の午後、私はベッドの上で、生まれて初めての体験をすることになりました。
ケンジとは、中学の同級生でした。卒業後は私が女子校、ケンジは男子校に進学して、しばらく会っていなかったんですが、高1の夏に偶然再会して、そこから付き合うようになりました。高校を出て就職したのをきっかけに、県内のアパートで同棲を始めたんです。
私たちの部屋は、ケンジの友達のたまり場みたいになっていました。特に、バイク好きのカズマ君とシンジロウ君は、毎週このアパートを起点に一緒にツーリングに出かけるのが習慣でした。
私は免許を持っていなかったので、いつも白いヘルメットを被って、彼のバイクの後ろに乗ります。4人でのツーリングは、もう恒例行事のようなものでした。
その白いヘルメットは、私の誕生日に、ケンジが初めてもらったボーナスでプレゼントしてくれたものでした。私にとっては、ちょっとした宝物だったんです。
とある土曜日の昼頃、カズマ君とシンジロウ君がいつも通りアパートに集まって、その日の行き先を相談していました。話し合った結果、2時間ほど走った先にある海まで行こう、ということになり、4人でアパートを出ました。
バイクを停めてある駐輪場まで来たところで、私は急に気分が悪くなり、そのまま一人で、アパートに引き返しました。
部屋に入ると、気分はますます悪くなっていきます。とてもツーリングに行ける状態ではありません。
みんなをあまり待たせてもいけないと思い、外で待っているケンジにLINEを送りました。
「ごめん。やっぱり何か気分悪い。悪いけど、ケンジたちだけで行ってきて・・・」
送信してから、ベッドに横になりました。
正直に言うと、ケンジたちが心配して戻ってきてくれるかも、と少し期待していました。でも、バイクが走り去っていく音を聞いて、私はちょっとだけがっかりしました。
しばらくして、うとうとと眠りかけた頃です。
突然、体が動かなくなりました。生まれて初めての、金縛りでした。
息苦しさと恐怖の中、必死にもがいて自由になろうとしていると――ベッドの脇、足元のあたりに、誰かが立っている気配がしました。
かろうじて自分の意思で動かせるのは、目だけです。震えながらそちらに視線を向けると。
女の子が、立っていました。
私が中学生の頃に着ていたのと、同じ制服を着ています。
その子は、薄ら笑いを浮かべながら、ベッドに横たわる私の顔に、ゆっくりと自分の顔を近づけてきました。
彼女の髪が、私の頬に触れた瞬間です。
私は恐怖のあまり、そのまま気を失ってしまいました。
――そして、その子は私の夢の中にも出てきました。
白いヘルメットを抱えて逃げる私を、彼女は追いかけてきます。
「いいなー そのヘルメット。 私にちょうだい!」
「いや! これは彼にもらった大事な物なの! 絶対ダメ!!」
叫びながら逃げていると、彼女は突然、追いかけるのをぴたっとやめました。そして、寂しそうにその場にうずくまってしまったんです。
その様子を見て、私は何だか申し訳ない気持ちになりました。恐る恐る、彼女の近くまで戻りました。
私が近づいたその瞬間――彼女はものすごい形相で振り向いて、叫びました。
「じゃあ・・・ ソノ カレ チョウダイ!!」
彼女が飛びかかってきた、その瞬間。
私は、目を覚ましました。
目覚めた瞬間、中学生の頃の記憶が、一気に押し寄せてきました。
ベッドの脇に立っていたあの子――彼女は、中学の同級生だった”ミヤちゃん”でした。
ミヤちゃんは、いわゆるストーカーのような子でした。入学してすぐの頃から、私のハンカチや髪留めのゴム、シャーペンまで、私の持ち物なら何でも、
「いいなー それ。 私にちょうだい!」
とねだってきました。
断ると、どこで見つけてくるのか、翌日には同じものを買ってきて、自慢げに見せつけてくる。私の気を引こうとしているような、ちょっと変わった子でした。
最初は「そのうち飽きるだろう」と、それほど気にしていませんでした。でも、それが丸1年以上続いて、だんだん鬱陶しくなってきて――中2の1学期が終わる頃、私は少し強めに、「私の真似をするのはもうやめて」と言ってしまったんです。
2学期になると、ミヤちゃんは学校に来なくなりました。
当時は、まさか自分の一言が原因だなんて思いもしませんでした。「不登校かな、それとも転校したのかな」くらいにしか考えていませんでした。
風の噂で、ミヤちゃんがあの年の夏休みが始まってすぐに事故に遭って、亡くなっていたと知ったのは、ほんの1ヶ月ほど前のことです。
それを聞いたときも、もう何年も前の話でしたし、正直、1学期しか一緒にいなかったクラスメイトの顔なんて、ほとんど思い出せませんでした。
なのに、目が覚めた瞬間、当時の記憶が、なぜか一気に蘇ってきたのです。
寝汗でびっしょりになって、私は飛び起きました。
わけもなく、猛烈に嫌な予感がして、すぐにケンジに電話をかけました。
雑音がひどくて、ケンジの声すらろくに聞こえません。でも、その向こうから、かすかに――でも確かに、ミヤちゃんの声が聞こえてきました。
「・・・ワタシ・・・ニ・・・チョウ・・・ダイ・・・」
私は電話の向こうに向かって、叫んでいました。
「ダメ!! ケンジ!! 逃げて!!」
叫んだ瞬間、電話は切れました。
かけ直しても、何度かけても、繋がりません。
「ケンジには、きっと聞こえたはず。早く帰ってきて・・・」
いても立ってもいられず、駐輪場でドキドキしながら待っていると、ようやく3台のバイクが帰ってきました。
アパートに戻ったケンジたちから、今日の出来事を一部始終聞いた私は――自分が怖い経験をしたことも忘れて、私のヘルメットを他の人に貸したこと、しかもその場に置いてきてしまったことを、泣きながら徹底的に叱りつけました。
その後、前よりずっと可愛い新しいヘルメットを買ってもらいました。お詫びの指輪も、ついでにもらいました。
しばらくして分かったことですが、あの日は、ミヤちゃんの7回目の命日だったそうです。


