#闇バイト

今度は2回

「ガチャコンッ! ガチャコンッ!」

と金属音がして、またドアノブを「ガチャガチャ!」と荒々しく開けようとする音が聞こえて来ました。

「何なんだよ! うるせぇぞ! どっか行けよ!!」

口では勇ましいことを言っては見たものの、相手は異常者の可能性『大』です。

その日もこの嵐が過ぎ去るのを、布団をかぶってじっと耐えるしかありませんでした。

すると、玄関の外から、家中が揺れるほどの地鳴りのような叫び声が聞こえて来ました。

「グォォォォォォォォォォォォォッ!!」

「に・・・ ニンゲンじゃない・・・!?」

結局また、翌朝、空が明るくなる頃まで、ずっと「ガチャガチャ!」を繰り返し、僕はその日もほとんど眠ることができませんでした。

ガチャガチャが収まり、玄関を見ると、盛り塩は溶け、鍵が2つ、開けられていました。

お金のためと思って、辛うじて我慢した翌日も、恐怖の「ガチャガチャ!」に悩まされた3日目の朝のことです。

鍵が3つ開けられているのを見て、僕はやっと全てを理解しました。

開けられるのが毎晩1つずつ増えて行く鍵。

玄関ドアの鍵は全部で4つ。

つまり、明日の夜は全部の鍵を開けて、あの女・・・いや、得体の知れない化け物が、ドアを開けて家の中に入って来れると言う事です!

それに気づいた瞬間、僕は背筋が寒くなり、このバイトを始めたことを後悔しました。

僕はこの状況を伝えようと、慌ててイヤマに電話しました。

「イヤマさん! 一体どうなってんですか? 俺もう、ヤバイっすよ! 他の人、今までどうしてたんですか?」

「それが・・・みんな日当も受け取らないで途中で逃げちゃって・・・ 連絡つかないんだよねぇ」

「行方不明ってことですか?」

「いや、電話に出ないだけだと思うよ。 前に一人だけ、電話に出てくれた子がいたんだけど・・・」

「・・・いたんだけど?」

「そのことは話したくないってさ。 ははは・・・」

「俺、もう無理っす。 帰ります!」

「オオハシ君、そこ、もうちょっと何とか頑張れない? それじゃあバイト代、出せないよ」

「・・・すみません・・・絶対無理です・・・」

僕はそう言って電話を切り、預かったキャリーバッグも冷蔵庫の中の物も全部置きっぱなしにして、その家から逃げ出しました。

その後、イヤマから連絡が来る事はありませんでした。

後日、ふと気になって、例の「#闇バイト」のサイトを見てみると、僕が応募した内容がそのまま残っていて、その下に同じような募集要項が追加されていました。

お留守番するだけ!
201X年7月14日13時から7月18日12時まで
日当3万円 × 正味4日間
最終日に取っ払いで、合計12万円GET!!
多少遠方でも交通費全額支給!!
早いもの勝ち!!
連絡先:090-XXXX-XXXX(担当:イヤマ)

お留守番するだけ!
201X年7月17日13時から7月21日12時まで
日当3万円 × 正味4日間
最終日に取っ払いで、合計12万円GET!!
多少遠方でも交通費全額支給!!
早いもの勝ち!!
連絡先:090-XXXX-XXXX(担当:イヤマ)

よく見ると、日程の最終日が全て、2日重なっています。

僕が7月11日13時から7月15日12時まで留守番をするなら、次の留守番は7月15日の13時からになるはずです。

それでやっと気付きました。

元締めのイヤマは「みんな最後の2日を残して必ず逃げる」と知っていたのです。

だからきっと・・・あの人はバイト代を払ったことが無いんです!

僕は完全に騙されていました。

楽して儲かる・・・ そんなうまい話、あるわけ無いですよね。

それにしても、毎晩「ガチャガチャ!」して来たあの女・・・ 一体何だったんでしょう?

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