#闇バイト

不気味さを全身で感じながらドアの前に立ち、1番上の鍵を開けると

「ガチャコンッ!」

という、鈍い金属音が響きました。

2番目、3番目・・・

一番下の4番目の鍵を開けて、ドアノブを回して手前に引くと、ギギギーッと嫌な音とともに、湿ったカビ臭い、重い空気が家の中から溢れ出しました。

「気持ち悪りぃ家だな・・・」

家の中に上がり、短い廊下があり、その右側が「お留守番の部屋」でした。

少しヒビの入ったくもりガラスがはまった引き戸をガタガタと開けると、更に重く異様な空気が、まるで僕の身体を押し返すように足元から湧き上がってきました。

「カビくせぇ・・・何だよこの家・・・」

8畳ほどの和室の真ん中には、小さなテーブルがポツンと置いてあり、奥の床の間には冷蔵庫がありました。

途中のコンビニで買ってきた飲み物と食料を、空っぽの冷蔵庫に入れ、その隣のドアを開けてみると、お世辞にもキレイとは言えないトイレがありました。

「部屋から直接トイレかよ・・・それにしても、暗いな」

キャリーバッグから仕事のルールを書いた紙切れを取り出し、確認しようとしましたが、
天気も良く、昼過ぎだと言うのに部屋の中は薄暗く、電気を点けなければ字が読めないほどでした。

この仕事のその他のルールは

「玄関の左右の盛り塩は、毎朝新しいものに替えること」
「誰かが訪ねてきても、絶対に出ないこと」
「もし、誰かが訪ねてきたら、ドアを開けずに玄関の内側から『お帰りください』と3回言うこと」
「鍵は常時4つとも閉めておくこと」

「盛り塩なんて、あったかな?」

玄関の鍵を閉め忘れていたので、ついでに盛り塩を確認しました。

「コレか・・・盛り塩なんて、変えなくてもバレないな」

鍵を全部閉め、部屋に戻り、隅に置かれている少し湿って重くなった布団を広げ、その上に横になり、携帯で暇をつぶしながら、ただひたすら時間が過ぎるのを待ちました。

「はぁ・・・ ここなら満喫の方が快適だな」

暇を持て余している内に、いつの間にかウトウト居眠りをしていると、夜9時を回った頃、突然

「ガチャコンッ!」

と、大きな金属音がしたかと思うと、玄関のドアノブを「ガチャガチャ!」と、荒々しく開けようとする音が聞こえました。

恐る恐る顔だけ出して玄関の方を覗いてみると、ドアの横のくもりガラスから、女性と思われる黒っぽい人影が立っていて、どうやらその人が、ドアノブを激しくガチャガチャと開けようとしているようでした。

その音の雰囲気だけで、その人が相当怒っていて、とにかく今すぐに、このドアを開けろ!と言う意思が伝わってくるようでした。

その時、メモに書いてあった内容を思い出した僕は、その言葉を3回唱えました。

「お帰りください! お帰りください! お帰りください!」

いくら言っても、その人は物凄い勢いでドアノブをガチャガチャと、狂ったように開けようとします。

「絶対異常者だ!」

そう思った僕は、そのまま部屋へ戻り、この嵐が過ぎ去るのを待つ事にしました。

ところが、いつまで経っても、ドアノブのガチャガチャは止みません。

あまりの執念深さに恐怖を感じた僕は、頭から布団をかぶって、じっと絶え続けました。

ドアノブの音がピタリと聞こえなくなったのは、空がうっすらと白み始めた、朝5時半過ぎのことでした。

「何だったんだろう・・・ クルクルパーか?」

そう思いながら、恐る恐る玄関に出てドアを見た時、一番上の鍵が1つだけ開いている事に気付きました。

「最初の『ガチャコンッ!』って音は、鍵を開ける音だったんだ」

そして、ふと玄関の盛り塩を見ると、左右ともぐっしょりと濡れて、溶けたように崩れていました。

その後、盛り塩をキャリーバッグの中にあった塩を使って、指示書通りにきれいに作り直し、ドアの両脇に置き、また長い1日の始まりを覚悟しました。

敷きっぱなしの布団の上でゴロゴロと携帯を触りながら、昨晩、あの「ガチャガチャ!」でほとんど眠れなかった僕は、いつの間にかまたウトウトと眠ってしまい、空腹で目が覚めたのは夜8時を過ぎた頃でした。

持って来たインスタントラーメンをすすり、水のようなぬるいシャワーを浴びて部屋に戻った時でした。