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兄の遺品

兄の遺品

福岡県 会社員 遠藤慶次(33)(仮名)

私には7歳年の離れた兄がいました。

今から20年前のことです。

私が中学生だった頃、年の離れた兄は、すでに社会人になっていました。
兄はちょっとヤンチャで、自分で働いて買ったバイクや車を乗り回し、仲間内でもリーダー格で、その姿は私にとって、憧れの存在でもありました。

そんな兄がある日突然、自ら命を絶ってしまったのです。

母の話では、友人と遊びに行き、帰ってきてから急に人が変わってしまったそうで、それから2ヶ月もしないうちに、自分の部屋で首を吊った兄は、帰らぬ人となりました。

当時の私は、兄の死を上手く受け入れることができず、むしろ自ら命を絶った兄に対して、何か恨みにも似た感情を抱いていました。

そのためか、家族の中でも、特に私がいる時は、兄の話題はある種タブーのようになっていました。

それから長い歳月が流れ、私も大人になり、兄の死から20年目の節目に、私は兄の死にあらためて向き合ってみる決心をしました。

その一環として、私が帰省した時に、それまであえて見ようとしてこなかった兄の遺品を、一度しっかり見ておこうという気持ちになったのです。

遺品と言っても、父と母がどうしても処分しきれなかった兄のガラクタを、ダンボール箱に入れておいただけのものです。

それでも私にとって、それは神聖な儀式でもありましたので、箱の前に正座して、大きく1回深呼吸をした後、そっとその箱を開けて中を見ました。

フワッと舞ったホコリの向こうには、兄が好きだったプロ野球チームの応援グッズや、輪ゴムでまとめられた写真、黒く変色したシルバーの指輪、当時乗っていたバイクや車のキーなどが無造作に収められていました。

私はその中に、1本の小さなカセットテープのようなものを見つけました。

それは昔「ミニDV」と呼ばれていた、動画のテープでした。

今のように、スマートフォンやデジタルカメラなどなかった時代、動画の撮影といえば、「ミニDV」と言う小さなカセットテープをカメラに入れて録画するのが主流で、当時としてはかなり画期的な記録媒体でした。

「何が映ってるんだろう。見てみたいな・・・」

ただ、困ったことに、このテープを再生してみようにも、肝心のカメラやデッキがありません。
そんなものはもう、とうの昔に廃れてしまい、今どきそれを再生するデッキなど、売っているわけもありません。

そこで、何とかこのテープを再生する方法はないかとインターネットで調べたところ、昔のビデオなどを1本1000円ほどでDVDに変換してくれるサービスがあることを知りました。

ただしそれは、20歳そこそこの、血気盛んな若い男が撮影したであろうビデオテープです。

「もし、ヘンな内容だったらマズイよな・・・」

そんな不安から、そのサービスを利用することは、父と母には内緒にすることにして、私はそのテープをポケットに隠し、翌日、実家を後にしました。

自宅に戻って、すぐにそのサービスを依頼してから10日後、丁寧に梱包され、箱に入ったマスターテープとDVDが、業者から送られて来ました。

私は早速DVDをデッキに入れ、再生ボタンを押しました。

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