石川県 自由業 Mさん(30代・女性)の未だに悔やまれる恐怖体験談
私には二十歳になる頃まで、いわゆる霊感がありました。
その能力は、物心ついた頃からずっと備わっていて、
両親と、ごく一部の仲のいい友達だけにはそのことを告げてありました。
両親は、私が高校生になる頃まで、いわゆる霊媒師とか、そういう方面に進むと思っていたようです。
ところが、大学に進学したあたりから、理由はわかりませんが、次第にその能力が失われていくことを、自分でも感じていました。
少し複雑な気分ではありましたが、私は「視える」というだけで色々と嫌な思いもしてきましたし、そういった方面での修行をしたわけでもないので、いわゆる「除霊」のようなことはできなかったものですから、これでやっと普通の生活ができるようになるという、嬉しさの方が強かったように思います。
そんな私が、今でも後悔していることがあります。
それは中学2年生の2学期が始まった日のことです。
夏休み明けで、久しぶりに会う友達との会話を楽しみながら、帰り支度をしていた時、クラスの男子達が教室の隅に集まり、神妙な顔をして何か話しています。
聞き耳を立てたわけではないのですが、聞こえてくる内容は、夏休みの間に放送された、テレビの心霊番組の真偽について話しているようでした。
その当時、テレビでは心霊番組が流行っていて、自称霊能者や心霊研究家なる人たちが人気を集めていました。
もちろん私は、その人たちはもちろん、番組の内容についても、本物かどうか判断することもできましたが、両親から私の能力のことは絶対に誰にも口外するなと言われていましたので、そう言ったことについて、誰かに話すことはありませんでした。
「あ、あのテレビに出てた人ね、ニセモノだよ」
言いたい気持ちをグッと飲み込みながら、友達と教室を後にしました。
教室を出た瞬間、ドサっと音がして、男子達が騒然となりました。
振り向くと、教室の隅で話していた男子たちの中の一人、I君が口から泡を吹いて倒れていました。
すると、その友人のK君が、白目を剥いて痙攣しているI君に向かって、何かをパラパラと振りかけています。
どうやらK君は、テレビで見た「除霊方法」を鵜呑みにして、もしもの時のために小さなチャック付きのビニール袋に、粗塩を入れて持ち歩いていたようです。
その後K君は、I君に向かって塩を巻いたり、うろ覚えの呪文を唱えたりしているうちに、I君の意識が戻りました。
「Kすげぇ!お前、才能アリアリじゃね!?」
周りにいた男子達にもてはやされ、まんざらでもない表情を浮かべるK君を、私は「ニセモノめ」とうんざりしながら見ていました。
後で聞いた話ですが、K君たち男子数人で、夏休みの最後にいわゆる心霊スポットに行ったのですが、その翌日からI君が体調を崩し、K君たちに相談していたということでした。
その数日後、K君のご家族に不幸があったということで、彼は3日間学校を休みました。
私は知っていました。
あの時、K君はI君の「除霊」をしたのではなく、単純にI君に取り憑いた悪霊を、自分の背中に付けて帰っただけだったことを。
同居するご家族が病気で体が弱っていたところに、あんなモノを連れて帰ったことが、死期を早めた原因になったのでしょう。
私には除霊ができないので、その時はどうすることもできませんでしたが、もしかしたら「I君に取り憑いてた霊がK君に移っただけだよ」と言ってあげることができていたら、状況は変わっていたかも知れないと思うと、今でも自責の念に駆られるのです。