京都府 無職 和田俊彦(68)(仮名)
私の趣味は秘湯巡りです。
若い頃から温泉が好きで、20代後半からは会社の休日を利用して、月に2回は日本中の温泉に出かけていました。
30代後半になると、その趣味も佳境に入り、普通の温泉では飽き足らなくなり、いわゆる秘湯と呼ばれるような温泉を探して出かけることが多くなりました。
その当時はGPSやインターネットなどない時代です。
私はもっぱら図書館などで基本的な情報を収集し、現地で地元の人から聞いた話などを参考にしながら、地図とコンパスを頼りに山奥に分け入るという、まさにサバイバルな秘湯探検でした。
ある年の9月の3連休に、香川県高松市屋島の、瀬戸内海に面した山奥にある秘湯に行くことにしました。
屋島といえば、太三郎狸(たさぶろうたぬき)の伝説がある場所です。
太三郎狸は別名、屋島の禿狸(やしまのはげだぬき)と言われ、地元では知らない人はいないほどの伝説の化け狸の事で、その変化妙技は日本一と称され、過去に自分が見た源義経の八艘飛びや弓流しなど、源平合戦の様子を、幻術で見せたという言い伝えがあるそうです。(スタジオジブリの『平成狸合戦ぽんぽこ』に出てきたタヌキの大将ですね。)
こういった伝説やその土地の伝承なども、秘湯の魅力をいっそう引き立てるアイテムになります。
私は早速、近くの温泉宿を探して、予約をしようと思ったのですが、巷はちょうど3連休だったため、近隣のホテルや旅館はどこも満室らしく、全く予約が取れませんでした。