そこから15分ほど走った時でした。
短いトンネルの入り口に差し掛かったところで、中学生くらいの制服を着た女の子が、こちらに向かって手を上げているのが見えました。
カズマとケイタロウはそのままトンネルに入って行ったのですが、その子が気になった私は、そこでバイクを止めました。
「大丈夫? どうしたの?」
私が声をかけると、女の子は
「K駅まで、連れて行ってください」
と、消え入りそうな声で頼んできました。
K駅は、このまま5キロほど走った道沿いの駅です。
私は迷いました。
実は以前、リナのヘルメットを他の女の子に被らせて、バイクの後ろに乗せたことがあったのですが、彼女はものすごく勘が良いので、そのことがすぐにバレて、猛烈に叱られたことがあったのです。
一瞬、そのことが脳裏をよぎりましたが、「これは人助けだ」と自分に言い聞かせ・・・まぁ、正直言うと、多少良い格好したいという気持ちもあり、ホルダーに付けていたリナのヘルメットをその女の子に被らせ、後ろに乗せて走り出しました。
少し走ると、カズマとケイタロウが、私が来ないことを心配して、道路脇に止まって待っていてくれました。
私もそこに止まり、カズマとケイタロウに一連の事情を説明しようとしたのですが・・・後ろに乗っているはずの女の子がいません!
「うわっ! もしかして、途中で落としたか!?」
カズマとケイタロウに慌てて事情を話し、来た道を戻ると、女の子を乗せたトンネルの出口の道路脇に、白いヘルメットだけがこっちを向いて、チョコンと置かれていました。
「え? 何だコレ・・・ どうなってんだ?」
私が道路脇にバイクを止めて、ヘルメットを拾いに対向車線側に歩き出したその時、ズボンのポケットに入れていた携帯が鳴りました。
電話を掛けて来たのは、リナでした。
ヘルメットの方に歩きながら電話に出た瞬間、リナが叫ぶように言いました。
「ダメ!! ケンジ!! 逃げて!!」
ただ事ではない雰囲気のリナの声に、道路の真ん中に立ち止まってヘルメットを見ると、シールドの奥から2つの目が、ジッとこっちを見ていたのです!
あまりの恐怖に、まるで金縛りにでもあったように固まっていると、ヘルメットの下から伸びている影が、ゆらゆらと揺れているように見えました。
目を凝らしてその影をよく見ると、それは影ではなく、長い髪の毛でした。
真っ黒に波打ち、まるでそれ自身が生き物のような髪の毛が、こっちに向かって、蛇のように左右にクネクネとうねり、扇状に広がりながらこちらに向かって伸びてきたのです!
少し遅れて来たカズマとケイタロウも、その様子を目撃していて、私が慌ててバイクに戻って走り出したのを皮切りに、3人で一斉に逃げ出しました。
その後は一度も止まる事なく、ヘトヘトになってアパートまでたどり着いた時、駐輪場でリナが心配そうに立っているのが見えました。
あれが幽霊か化け物か、私には分かりませんが、またリナのヘルメットを貸して、しかもあの場所に置いて来てしまったことで、あれほどボロカスに叱られるとは思いませんでした。