同窓会の後に

教室の中には机と椅子が整然と並び、30人ほどの子供達が、ひざの上に両手を置き、きちんと座った状態で、教壇に立つ女性の方を、じーっと見据えていたのです。
ぼんやりと青白く光って見えたのは、その子供達と、おそらく先生と思われる女性そのものがオーラのように発光している光でした。

私達は更に気味の悪いことに気付きました。
その子供達の服装や髪型はそれぞれ、少しずつ違っていましたが、何よりも違和感を感じたのは、その表情でした。

子供達の顔は、マネキンを並べたように全員、全く同じで、大きくくぼんだ真っ黒な目に、アゴが外れたようにダランと口を開けて、教壇に立つ先生の方を、微動だにせずにじっと見ているのです。

人間、本当に怖い時は体が硬直して、声も出せなくなるのだと、その時初めて悟りました。
一緒に来た残りの4人も、全く同じリアクションで、誰一人、声を上げることも逃げることもできず、ただじっと息を殺して、まるで金縛りにでもあったかのように、その異様な光景を呆然と見つめていました。

「・・・あれ・・・なに?・・・」

最初に言葉を発したのが誰かはわかりません。

ただ、その声をきっかけに、全員が同じタイミングで我に返り、猛ダッシュで逃げ出しました。

「キャーーーーーーーッ!!」

「うわーーーーーーーっ!!」

お互いを気遣う余裕もなく、ただひたすら山道を猛烈なスピードで駆け降り、駆け上り、息も絶え絶えにやっとの思いで借りていた大広間に転がり込むと、しばらくの間、誰一人話すことなく、それぞれが見た”モノ”について、それぞれの頭の中で整理する時間が過ぎていきました。

30分ほど経った頃でしょうか。いや、もっと長かったかも、あるいは短かったかも知れません。

友人のうちの一人が、重い口を開きました。

「・・・さっきの・・・見たよな・・・」

「・・・うん・・・見た・・・」

重苦しい空気が続きます。

「・・・子供・・・あいつら・・・何だ?」

「・・・教壇にいたの・・・あれ・・・あいつらの先生か?」

「・・・みんな先生の方・・・パカーッと口開けてじーっと見てたよな・・・」

すると、それを聞いた友人の一人が、怪訝(けげん)そうな表情で言いました。

「え? 先生の方? 違う違う。先生も子供も、じーっと俺たちの方を見てたよ!!」

暗かったので、彼にだけは、そう見えたのだろう。
多少の疑問もありましたが、皆そのことについて深くは追求しませんでした。

翌日、同窓会の出席者全員で、小学校を見に行くことになっていましたが、私達5人は二日酔いを理由に、申し訳ないなと思いながらその誘いを断りました。

東京に戻り、1ヶ月ほど経ったある日のことです。
あの時のメンバーの1人から連絡がありました。

彼女の話では、あの時のメンバーのM君が、半月ほど前、自殺未遂で入院した、ということでした。

M君と言うのは、あの時一人だけ

「先生も子供も、じーっと俺たちの方を見てたよ!!」

と言った彼でした。

彼女の話では、M君はあの後、精神のバランスを崩し、何かの薬を大量に飲んで自殺を図ったものの、すぐに家族に発見され、幸い命に別条はないとのことでした。

ただ、不可解なことに、彼は救急車で病院に担ぎ込まれた時から入院中ずっと、

「センセイゴメンナサイ・・・モウシマセン・・・ユルシテ・・・ミナサンゴメンナサイ・・・モウシマセン・・・イッショニカエリマショウ・・・センセイゴメンナサイ・・・モウシマセン・・・ユルシテ・・・ミナサンゴメンナサイ・・・モウシマセン・・・イッショニカエリマショウ・・・」

と、何度も何度も、うわ言のように繰り返していたらしいのです。

その原因が、あの時の体験と全く無縁ではないような気がするのは、私だけではなかったはずです。

彼は2年たった今でも、精神科に入院しているということです。