石川県 会社員 石井香織(29)(仮名)
それは、今から3年ほど前の出来事です。
私は3歳の息子を持つ、シングルマザーです。
離婚の原因はさておき、子供との生活を少しでも安定させるため、私は離婚後すぐに県営住宅への入居を申請しました。
ちょうどその頃、同じ市内で大規模な県営アパートが完成し、母子家庭の優遇措置があったおかげで、幸運にもすぐに入居することができました。
元々その土地は小学校の跡地で、戦前から続いてきた歴史ある小学校だったのですが、少子化の影響で廃校になったのだそうです。
私達の入居から数日後、お隣りと真上の部屋に、それぞれ引っ越して来たというご家族が、ご挨拶にいらっしゃいました。
聞く所によると、偶然にも2家族とも、同じ3歳の子供を持つシングルマザーで、これから通う保育園も一緒だということで、私達はすぐに意気投合しました。
これが偶然なのか、役所の割り振りのおかげなのかは分かりませんが、シングルマザーにとって、境遇の似たママ友はとても心強く、私はまるで『戦友』に出会ったような気分でした。
隣の部屋のYさんは、男の子と一緒に住む、私より4つ年下の若いお母さんです。
上の部屋のFさんは私より少し年上で、かわいい女の子と暮らす、とてもしっかりしたお母さんでした。
それから1週間ほど経ったある日のことです。
この日は息子の「慣らし保育」の最終日で、夕方6時のお迎えまで、初めて親の付き添い無しで過ごしました。
もともと物怖じしない性格の息子は、私が迎えに行くまで上機嫌で、「お友達とも楽しく遊んでいましたよ」と言う保育士さんの報告に、ホッと胸をなでおろしました。
何日か遅れて慣らし保育を終了したYさんの息子さんと、Fさんの娘さんも仕上がりは上々で、まずは第1段階の試練を皆んなで乗り越えた、といったところでした。
それからまた、3ヶ月ほど経った頃です。
保育園から連れて帰った息子が、居間で何かの歌を歌っています。
「テレビでも見ながら一緒に歌っているのかな?」
それにしては、テレビの音が聞こえてきません。
キッチンから居間の奥にいる息子の方に首を伸ばしてみると、背筋と指先をピンと伸ばし、気をつけの姿勢でやや上を見上げながら何かの歌を一生懸命歌っています。
「おーにのー・・めにたぁたたったぁー えーたぁしゃんのぉー おたででしゅー」
何の歌だかは分かりませんでしたが、直立不動で一心不乱に歌っている姿がとても可愛かったので、思わず携帯で動画を撮影しました。
歌い終わって満足気にしている息子に、
「それ何のお歌? 保育園で習ったの?」
と聞いてみたのですが、息子は照れくさそうにもじもじ体をよじるだけで、その時は答えてくれませんでした。
それから数日後、休みの日に私の家で、Yさん、Fさんと、最近定例化しつつあるママ会をすることになっていました。