やはり、元のテープ自体が劣化していたためか、映像も音声も、かなりノイズが入っていましたが、それがむしろノスタルジックな雰囲気を演出してくれました。
久しぶりに見た兄の姿は、当たり前ですが若くて、やっぱりカッコ良くて・・・
友人とじゃれ合う元気な兄、バイクで急カーブを疾走する兄、走行中の車内で談笑する兄・・・
懐かしい兄の姿に、私の目はいつの間にか、涙で溢れていました。
「そうか・・・ でも、ここに映ってる兄ちゃんより、今の俺のほうが10歳以上も年上なんだな・・・」
少し不思議な感覚で映像を見ていると、次のシーンで、暗闇に浮かぶ大きな灰色の建物が映し出されました。
恐らく友人の声と思われる声に混じり、少し大きなかすれた兄の声。
友人しか映っていないことなどから察すると、たぶん兄が撮影しているのでしょう。
建物に近付いていくと、その周辺には雑草が生い茂り、よく見ると窓ガラスはほとんど割れていて、おそらく廃墟になったホテルか病院のように見えました。
数人の男女の声と兄との会話から、どうやら友人と一緒に、ここに肝試しにやってきたようです。
相変わらず画質が悪く、音声ノイズもひどい上に、何かをガサガサと踏みしめて歩く音や、手ブレも加わって、酔ってしまいそうな映像が続きました。
何度かシーンが変わり、それでも同じ廃墟の中らしく、代わり映えしない映像が続きます。
あまりのつまらなさに、少し早送りしようかとリモコンを手にしたその時、状況が一変します。
コンクリート打ちっぱなしの部屋の隅が映し出され、ビデオを持ったまましゃがみこんで撮っていると思われる映像に、ハアハアという荒い息遣いだけが妙に近くに聞こえてきます。
今までの状況から考えれば、恐らく、この息遣いの主は、兄だと思われました。
もはやどこを映しているかも分からない映像が続くのは、誤って録画ボタンを押してしまったことに、気付いていないのでしょう。
次の瞬間、真っ暗な建物の中を、ビデオのライトを頼りに走る兄は、何かから逃げているようでした。
手ブレがひどく、何を撮っているのかも分からない映像が何分も続きます。
その中でも、ハアハアという荒い息遣いと、ガシャガシャとガレキを踏みつけながら走る足音だけは、途切れることなく録音されています。
そんな映像がしばらく続いた後、兄の友人の声が響きました。
「ケイタロウ! そっち行ったぞ!!」
「ケイタロウ」は兄の名前です。
するとまた、コンクリート打ちっぱなしの部屋の隅が映し出されました。
この状況から察するに、「何か」から逃げるように走って来た兄は、この部屋に逃げ込んで、部屋の隅に隠れるようにして、その「何か」に見つからないよう、じっと身を潜めている。そんな状況が見て取れました。
「ケイタロウ! 後ろ!!」