東京都 会社員 Wさん(20代・男性)が体験した恐怖の実話怪談②
※この怪談は、Wさんが体験した恐怖の実話怪談①「仰視-見上げたもの」からの続きです。
昨夜の不可解な一件のおかげで、その日の朝アパートに帰り着いてからは、強烈な痛みに耐えながら何とかシャワーを浴びた後、泥のように眠りました。
とはいえ、とにかく背中じゅうが猛烈に痛かったので、ベッドにうつ伏せのまま寝返りもできず、痛みに耐えながらただひたすら眠り続けました。
しばらくして、部屋の中に西陽が差し込み始めた頃、ぼんやりと目覚めた理由は、遠くから聞き覚えのある音が少しずつ近付いて来たからでした。
・・・ザッザッザッザッザッ・・・
それは間違いなく、昨日、H山で聞いた、あの隊列の足音です!
ハッとして目を開けた瞬間、私は自分が見ている光景を理解するのに、しばらく時間がかかりました。
少しずつ状況を把握できるようになった時、私はベッドの上でうつ伏せになって寝ている私自身を、天井から見下ろしている状態であることを理解しました。
私は、私自身を俯瞰していたのです。
ホコリを被った火災報知器や、虫の死骸が入り込んだシーリングライトが顔の真横にあることで、間違いなく私が天井に張り付いていることが分かります。
その光景は、とても夢だとは思えないリアルさでした。
天井から見下ろした先には、昨日の夜に一緒に走った軍服姿の青年たちが、私が寝ているベッドを二重三重にぐるりと取り囲んで、何やら話し合っています。
くぐもった声をよく聞くと、誰が私の中に入るかということで揉めているようです。
もし誰かが私の中に入ったら、今天井から自分を見下ろしている私は、一体どうなってしまうのでしょうか。
そんなことを許してしまえば、私は私でなくなってしまう、そんな気がしました。
「そんなこと!絶対させねぇぞ!!」
懸命にもがいていると、まるで私を天井に縛り付けてあった紐がプツリと切れたかのように、私は天井から落下して、ベッドの上で寝ている私の中に戻ることができました。
その時、天井から落ちた衝撃で、ベッドの中のスノコ状の板が何本か折れてしまったほど、相当な勢いで落ちたようです。
その後、慌てて飛び起きてあたりを見回すと、軍服姿の青年たちは一人残らず消えていました。
すぐに電気を点けて、改めて部屋の中を見てみると、木の枝や木の葉が部屋中に散乱しています。
これだって今朝、帰って来た私が部屋に持ち込んだものだと思いますが、それにしてはかなりの量です。
第一、私は帰ってすぐ、玄関で靴を脱いだはずなのに、部屋中に大量の靴の跡が付いていたのもおかしな話ですが、酔っ払って自分で無意識にしでかしたこと、という見方もできなくはないでしょう。
ただ、この一連の体験がきっかけで、改めて考えたこともありました。
それは8月15日の終戦記念日が近かったことが、自分の潜在意識の中で関係していたのかも知れないということです。
戦禍に300万人以上もの犠牲を出してまで手に入れた今の日本の形は、果たして合格点なのでしょうか。
私は絶対に、幽霊、心霊、死後の世界といった類のものは一切信じませんが、今日のこの国の輪郭を命を賭して形成してくれた英霊たちの御霊(みたま)が、今でも私たちを俯瞰して見守ってくれていることに、感謝の気持ちを忘れてはならないと、改めて思いました。