彼女「5,午前3時になったら・・・」
私「っちょっ! 3時!? それまで待つの?」
彼女「そうよ。 ちゃんと聞いて。 午前3時になったら、ぬいぐるみに向かって「最初の鬼は『俊』だから」って3回言います」
私「え? 俺、最初?」
彼女「そうよ。 イヤ?」
私「イヤじゃないけど・・・ ルール難しいな・・・」
彼女「でもダメ。 最初は俊が鬼だから、ちゃんと覚えて」
その時、私は「おかしいな」と思いました。
私「これって『ひとりかくれんぼ』だよね? これ、俺と美希ちゃん(彼女の名前)と、ぬいぐるみ入れたら3人じゃね?」
彼女「・・・そうね。 でも、ぬいぐるみは元々カウントしないから、『ひとりかくれんぼ』なんだけど、今日は『ふたりかくれんぼ』だね」
私は「もうその時点で『正式』じゃないじゃん」と思いましたが、彼女の機嫌を損ねるのも嫌だったので、そこはあえてツッコミませんでした。
その後も彼女のプレゼンは続きました。
要約すると、水を張ったバスタブにぬいぐるみを沈め、部屋に戻ってテレビを砂嵐(注1)の画面にしておき、それ以外の明かりは全部消して、目を瞑って10秒数えたら、包丁を持って浴室へ行き、「あいちゃん(ぬいぐるみの名前)見ーつけた!」と言いながらぬいぐるみを包丁で刺す、ということでした。
注1:テレビ画面が「ザーッ」と砂の嵐のようになって何も受信していない状態。当時は地デジ放送への移行期間で、アナログ放送に切り替えれば、砂嵐の受信も可能でした。
その後、「次はあいちゃん(ぬいぐるみの名前)が鬼!」と言いながらぬいぐるみを置き、すぐに逃げて部屋のどこかに隠れていると、その間、心霊現象や怪奇現象が起きる、というのです。
ちなみに、この儀式を終わらせるには、予め用意しておいた塩水を口に含み、浴室にあるぬいぐるみに吹きかけて「私の勝ち」と3回言うのだそうです。
彼女「分かった? ルール、覚えた?」
私「・・・うん・・・」
その後、嬉しそうにぬいぐるみのお腹を切って綿を出し、米や自分の爪や髪の毛を入れている彼女の姿を見ていた私は、少し空恐ろしさを感じました。
奇妙な儀式の準備が全て整い、夕飯と入浴を済ませ、つまらないホラー映画を観ながら2人で3時になるのを待ちました。
そしていよいよ、儀式の開始時刻になりました。