目の前にいる

埼玉県 会社員 相沢実(31)(仮名)

自分で言うのも何ですが、私はいわゆるメガネデブです。

そもそも大食漢だったのですが、学生時代は運動部でしたので、食べた分以上のカロリーは消費していたため、それほど太ってはいませんでした。

ところが、社会人になってからというもの、ほとんど運動しなくなったにもかかわらず、食欲だけは学生時代のままで、就職して8年で、30キロ以上太ってしまいました。

太ったことで意外と一番困っていたのが、メガネです。

冬場、暖かい部屋から寒い外に出ると、メガネが曇ることは誰にでも経験があると思いますが、私の場合、尋常じゃないくらい、メガネが曇ってしまうのです。

例えば朝起きて、部屋の中でメガネをかけた時や、会議中、人の話を聞いている時など、突然真っ白に曇ることがあるのです。

もちろん、曇り止めのスプレーなども試しましたが効果が続かず、コンタクトレンズは相性が悪かったため、この問題に関しては、太っている自分が悪いのだと、半分諦めていました。

だから私は、デブにしては珍しい、冬嫌いのデブだったのです。

そんなくだらないことに悩んでいたある日、高校からの友人と家飲みしている時に、こんな話を聞きました。

「ミノル、知ってる? 今、ネットで噂になってるんだけど、幽霊がいるかどうか確実に分かる方法があるんだってよ。」

「へぇー。どうやんの? それ。」

私はそれほど興味はありませんでしたが、社交辞令的になんとなく聞いてみました。

すると彼は、身を乗り出すようにして、嬉しそうに話し始めました。

「あのな、最初に独りきりになって、部屋の真ん中に立つんだよ。

そしたら目を閉じて、携帯カメラを胸の前で構えて、外向きのカメラで録画しながら、その場でぐるっと1周回るの。

そうすると、部屋の中が360度、ぐるっと一周撮れるだろ?

そしたら今度は、自分の顔と背景が映るように、自撮りしながら目をつぶって、同じようにぐるっと1周するんだよ。

それで、撮れた動画を確認すると・・・映ってるんだってよ! 霊が!」

くだらないネットの噂を、さも本当のことのように話す友人に、私は少し呆れました。

夜になって、いつもは泊まりで飲んで行く友人が、珍しく帰るというので、そのまま部屋の中から見送りました。

その時、友人が言っていた、幽霊を見る方法を思い出し、くだらないと思いながらも、なんとなく試してみたのです。

友人が教えてくれた方法を思い出しながら、最初は部屋の周りを1周して撮影した後、自撮りで1周しながら撮影した時、またメガネが急に曇りました。

「なんだよこれ、メガネが曇った瞬間を写しただけじゃんか。」

そう思いながら、1つ目の動画を確認しました。

もちろん何も映っていませんでしたが、なんとなく、かすかに人の声が録音されているような気がしました。

そこで、携帯のボリュームを最大にして、2つ目の動画を見た時、メガネが曇る原因がはっきりと分かりました。

撮影した動画に写っていたは、私の顔から数センチのところまで唇を近付けて、気味の悪い笑顔で私に向かってしゃべりかけている、見たこともない女だったのです。

その女はしゃべりかける時に吐く息で、私のメガネを白く曇らせながら、こう言いました。

「・・・ハァ、バレタカ・・・」

あまりの恐怖にアパートを飛び出し、近所の漫画喫茶で一夜を明かした翌日、神社にお願いしてお祓いを受けると、メガネの曇りは嘘のようにおさまりました。

その女が誰だったのか、なぜその女が私に取り憑いていたのかは全くわかりません。

ただひとつ言えるのは、急にメガネが曇った時にはいつも、その女が不気味な笑顔で、私に何かを喋りかけていたということです。