山形県 会社員 Fさん(30代・男性)の怖い話
3年前の初夏のことです。
夜の10時を少し回った頃、仕事から車で帰ってくると、駐車場の周りにパトカーや消防車、救急車が、周囲の建物を赤色灯の光で赤く照らし出すほど、何十台と集まっていました。
張り巡らされた黄色い規制線の周りには大勢の野次馬が集まり、私の住むアパートの方を指さして、何やら心配そうな表情で話をしています。
ノロノロと人を避けながらアパートの手前にある駐車場に入る際、ちょうど警察の人がいたので、何があったのか聞いてみました。
「すみません。そこのアパートの住人なんですが、何かあったんですか?」
すると、警察官が神妙な面持ちで、こう言ったのです。
「あのアパートの屋根の上で、子供が飛び跳ねて遊んでいるという通報が入ったんですよ」
そんなバカな!と思いました。
私の住むアパートは新築で、パッと見た感じは北欧風、と言うと、ちょっと良く言い過ぎかもしれませんが、大きな赤いマンサード屋根が特徴で、そのデザインが気に入って入居を決めたのです。
マンサード屋根とは、途中で折れ曲がって勾配が変わるタイプの屋根で、積雪の滑りがよく、雪おろしがいらないメリットがあるそうで、おそらく、一般的な住宅の屋根よりずっと傾斜がキツいはずです。
その屋根の上で、子供が飛び跳ねて遊べるはずがありません。
しかも時間は夜10時過ぎです。
とりあえず車を駐車場に停め、野次馬たちの視線を掻い潜りながらアパートの入り口まで歩いて行くと、階段からドカドカと数人の警察官が降りてきて、消防隊員に向かって叫びました。
「タンカ! タンカ持ってきて!!」
呆然として佇んでいる私を尻目に、救急隊員が慌ただしく階段を上り下りしています。
どうやら子供が飛び跳ねていたという屋根のちょうど真下の住人が、部屋の中で倒れていたらしいのです。
しばらくあって、その部屋に住んでいた30代くらいの女性と思われる人が、顔まで白い布をかけられて運び出されて行きました。
警察官と消防隊が1階の出入り口から救急車まで、ブルーシートで目隠しをして見えないように運んで行ったので、おそらく亡くなっていたのではないでしょうか。
その一部始終を間近でみた後、ようやく自分の部屋に帰り着いたのですが、隣に住んでいた人が亡くなった訳ですから、なんだか寝付きも悪く、翌朝は重い気分で出勤しました。
「そういえば屋根の上にいた子供は、どうなったんだろう?」
その後の情報が何もなかったので、モヤモヤが消えないまま、1週間ほど経ったある日のことです。
いつものように、夜10時ごろ、車で仕事から帰って来た私は、駐車場に車を止め、なんとなく祖母の家の方を見ました。
私がこのアパートに住もうと決めたのは、外観が気に入ったことに加え、一人暮らしの祖母が住む家が、私の部屋から見えるほどすぐ近くにあるため、時々様子を見にいくことができることも理由だったのです。
その瞬間、私は我が目を疑いました。
漆黒の空を背景に、満月でその境界がくっきりと浮かび上がった祖母の家の屋根の上で、一人の少年がぴょんぴょんと飛び跳ねていたのです!
慌てて警察に通報して、状況を説明していた時、私の脳裏に1週間前のあの事件が蘇り、その後すぐに嫌な想像が湧き上がりました。
「ばぁちゃん!!」
通報後すぐに祖母の家まで走り、インターホンを押しましたが、応答がありません。
全身の血液が泡立つような思いで、合鍵を使って家の中に入ってすぐに、居間で倒れている祖母を発見しました。
その後の事は、まるで夢の中の出来事のようで、あまり詳細には覚えていません。
後の話で、私が発見する前に、祖母は亡くなっていたそうです。
それにしても屋根の上で飛び跳ねていた謎の少年は、一体なんだったのでしょうか。
私はあの少年を、絶対に死神だと確信しています。
そしてもうあの少年を見ることがないよう、できるだけ屋根の上を見ないようにしています。