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私だけ

すると、真っ暗なはずの家の奥に、上からフワッとスポットライトを照らしたようにほんのりと明るい場所があり、そこにホコリか煙のようなものがグルグルと渦を巻いて舞い上がっているのが見えました。

メンバー全員が、恐怖よりも「あれは何だろう?」と言う興味に背中を押され、上下左右に顔を並べてその煙をジッと見ていると、それはどんどん塊になり、遂には完全に人の形になったのです!!

「うわーーーーっ!!」

「きゃーーーーっ!!」

どこへ向かって逃げたのか、誰が先頭だったのか、そんな事は一切覚えていません。

いつの間にか停めてあった車のところまで辿り着き、みんなで車の中に転がり込むと、「火事場の馬鹿力」と言うのは、初心者ドライバーの運転にも当てはまるのでしょうか?

来る時は恐る恐る運転して来たドライバーの男子が、逃げる時にはUターンが出来るところまでの100メートル程の山道を、猛スピードで、しかもバックのまま下って行きました。

その後、国道に出て、コンビニの駐車場に入るまで、誰一人として口をきかなかったのですが、車を停めた途端にみんな安心したのか、堰を切ったように、一斉にその時の恐怖を語り始めました。

私が見たのは白っぽい着物を着たお婆さんでした。

ところが、他のメンバーはそれぞれ

「小学生くらいの女の子だった」

「髭ヅラのおじいさんだった」

「派手な服を来た女の人だった」

「スーツを着たサラリーマン風の男だった」

と、何故か誰一人、見た目が一致しませんでしたが、唯一「あっちに行けと手で追い払うようにして怒っていた」と言うことだけはみんな共通していました。

ただその時、私だけが妙な違和感を感じていました。

みんなは口を揃えて「怒りながら手で追い払われた」と言っているのに、私にはこっちに来いと手招きされているようにしか見えなかったからです。

確かに、手の甲を上にして「あっちへ行け」と追い払うのも、「こっちへ来い」と手招きするのも、ジェスチャーとしては似ています。

でも、その2つの違いは、普通なら絶対に分かるはずです。

ただ、私がそれを言えば、またみんながパニックになると思い、その事は私の胸の中にしまっておきました。

それぞれが妙なテンションを抱えたまま、時間もかなり遅くなったので、そろそろ家に帰ろうと言うことになりました。

コンビニを出て数分走り、交差点に差し掛かった時、斜め前を走っていた大型トラックに突然幅寄せをされ、私たちは車が廃車になる程の大きな事故に遭いました。

私以外のメンバーは軽傷か、1週間ほどの入院で済みましたが、事故の衝撃で車外に放り出された私だけは10日間、意識不明の重体で、一時は生死の境を彷徨うほどの大怪我をしました。

集中治療室に入っていた私は、夢の中で「あのお婆さんに会いに行かなきゃ」と、一人であの山道を登っていました。

すると、一緒にいたみんなが道の下の方から、こっちに戻って来いと懸命に手招きするので、仕方なく山道を降りて行く、と言う夢を見たことがきっかけで、私は意識を回復しました。

後でわかったことですが、幅寄せして来たトラックのドライバーは、警察の事情聴取で、

「交差点の中で、白い着物のお婆さんが『こっちに来い』と手招きしていたのが見えたので、慌ててハンドルを切った」

と言っていたそうです。

みなさん、夏休みになっても絶対に心霊スポットになど行かないよう、肝に銘じてください。

実話怪談【神怖】私だけ

囁き怪談【夢怖】私だけ

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私だけ

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