群馬県 会社員 斉藤 利明(23)(仮名)
それは私が小学校に上がる前ですから、多分5歳くらいの時の体験談です。
その日は朝からとても暑かったのを覚えています。
家の中で遊ぶ事に飽きた私は、母にねだって、近所の公園に連れて行ってもらいました。
平日の午前中なら、その公園に行けば1人や2人は、いつも一緒に遊ぶ友達がいるはずです。
その日もやはり、一番仲良しで同い年のケイタロウ君が、先に滑り台で遊んでいました。
公園内の遊具でひとしきり遊んだ後、2人で一緒に砂場へと向かいました。
今日は今までで一番大きな砂山を作ろうという事になり、体中砂だらけになりながら、過去最大の砂山を作った2人は、それに飽き足らず、その砂山にトンネルを開通させることにしました。
砂山の両端から、2人で懸命に腕を突っ込み、私は反対側から伸びてくるであろう、ケイタロウ君の手を探しました。
ちょうど砂山の半分くらいまで掘った時、私は突然「ガシッ」と手首を掴まれました。
幼いとは言え、掴んできたその手の力の強さと角度で、それがケイタロウ君の手でないことは、すぐに分りました。
その手は、砂場の真下から伸びてきて、私の手首をものすごい力で掴んで離しません。
すると次の瞬間、その手は私の手首を掴んだまま、砂場の真下に向かって、私を引きずり込もうとするのです!!
「やめてよ! はなしてよ!!」
そう叫ぼうとした時にはもう、私は頭から砂山に突っ込み、グイグイと砂場の中に引きずり込まれて行きました。
感覚的には頭からお腹くらいまで、一気にズボッと砂の中に引きずり込まれたように感じました。
息をしようとしても、口に中に砂が入って来て、苦しくてたまりません。
それなのに、なぜか目だけは開けられたので、自分の手首を掴んでいる奴を見ると、それは私と同い年くらいのおかっぱ頭の女の子でした。
その子は真っ白な顔色で、目は白目がなく全部真っ黒。
左右に裂けたように広がる真っ赤な唇で、不気味な笑顔が印象的でした。
その時、私の手首をグイグイと引っ張りながら、その女の子が私に向かってこう言いました。
「ネェ・・・ コッチデ イッショニ アソボウ・・・」
砂山に頭を突っ込んでもがく私の異変を、いち早く察知した母は、私の両脇を抱え、砂山の中から引っ張り出してくれました。
あまりの恐怖と、息ができなかったせいで気を失った砂だらけの私を、母が家まで連れて帰りました。
母は、私が頭を突っ込むようにして掘った砂山が崩れ、埋まってしまったと思っていたようです。
母に砂場から救出された瞬間、掴んでいた手が振りほどかれ、とても寂しそうに砂の中に沈んでいった女の子の表情は、今でも鮮明に覚えています。
そして私の手首には、あの時、女の子に引っかかれた爪痕が、今でも薄っすらと残っています。