しばらくすると突然、拍手の音がピタリと止まったので、しゃがんだまま恐る恐る顔を上げてみました。
すると、私を取り囲んでいたはずの在校生は、いつの間にか、見知らぬおじいさん、おばあさん、工事の人、漁師さん、コックさん、パン屋さん、サラリーマン、子供とそのお母さん・・・ 全員知らない人ばかりに代わっていたのです。
私を取り囲んで、微動だにせず、無言でじーっと私を見つめる人たちは、みな一様に真っ黒な泥と油にまみれ、グショグショに濡れています。
そして、私が何より怖かったのは、全員、無表情のまま、胸の前で手の甲を合わせていることでした。
その夢があまりにもリアルで恐ろしかったので、3月のまだ冷え込む季節にも関わらず、私は汗ビッショリになって、泣きながら飛び起きました。
それからというもの、私は毎晩同じ夢を見続け、精神的に少し参っていました。
その事を母親に相談しても、
「毎日遅くまで卒業式の準備で疲れてるんでしょ。早めに寝たら?」
と、その程度の返事で真面目に取り合ってもらえず、
「そこは夢と同じ、けんもほろろなんだ・・・」
と、諦めるしかありませんでした。
それから数日が経ち、ついに卒業式を明日に控えた午後のことでした。
私達が体育館で、飾り付けの最終的な確認をしていた時、突然、下から突き上げるような縦揺れが起こったかと思うと、すぐに激しい横揺れに変わり、立っていられないほどの揺れがしばらく続きました。
体育館全体がギシギシときしみ、このままでは建物ごと壊れてしまうのではないかと思ったその時の恐怖は、今でもはっきりと覚えています。
幸い、私の学校では、犠牲になった人はいませんでしたが、あの震災で、小学校時代の友人やその家族が何人も、尊い命を奪われました。
あの時見た怖い夢と、あの震災とが、関係あるかどうかは分かりません。
でも、もし普段見ないようなリアルで怖い夢が何日も続いたら、それは何かの前兆かも知れませんので、どうぞ注意してください。