公園の女の子

土日を挟んで翌週の月曜日、私はまた、いつもの電車に乗って、大学へと向かいました。

その日は久しぶりにカラッとした晴天で、風がとても気持ちの良い朝でした。

いつもの通学路を歩いて、また例の公園の前に差し掛かった時、忘れていたあの女の子のことを思い出しました。

公園の中には入りたくなかったので、駅側の入り口から、首だけ伸ばすようにして、右の奥にあるブランコの方を覗き込みましたが、やはり誰もいませんでした。

そのまま公園の外を囲む通学路を歩き、反対側の出入り口に差し掛かった時です。何気なく奥のブランコの方を見ると、今度はあの女の子が座っているのです。

「え? さっきはいなかったのに。いつ来たの?」

その時、私は咄嗟に女の子のところまで行こうと思いましたが、その時ちょうど、後ろから友人に声をかけられ、そのまま大学へ向かってしまいました。

私はその日、一日中、あの女の子のことが頭から離れませんでした。

講義が終わった帰り道です。

まさかと思いながら暗い公園の奥に目を凝らすと、やっぱりあの赤いブランコに、紺色のワンピースを着た、あの女の子が座っているのが見えました。

私は一瞬立ち止まってから、その子の方へ行こうかと思っていた時です。先週、私と一緒にいた例の友人が、私の右腕に手を回し、私をにらみつけながら、左右に首を振るような仕草で、無言のまま「やめなさい」と諭しました。

確かに、私が行ったところで、何ができるわけでもありません。

その場は素直に諦めた私は、公園の外の通学路に戻って、友人と駅に向かいました。

公園を避けて駅側の出入り口に差し掛かった時、やはりどうしても気になった私は、友人に掴まれていた右腕を振り払うようにして、公園内のブランコの方を覗いてみました。

「あれ? いない。」

ブランコの周りだけでなく、公園内のどこにも女の子の姿はありません。

このわずかな、1分にも満たない間に、タイミングよく公園から出て行ったのでしょうか?

友人が

「ほら、美佳。もういいから帰ろう。」

と怒ったような口調で言ったのは、この異変を察知していたからかもしれません。

その瞬間、私は直感的にあることに気付いてしまったのです。

その勘を確かめるため、私は友人にここで待つように言い、急いで公園の外を、反対側の出入り口まで走って戻り、ブランコの方に目を凝らしました。

私の勘は、間違いありませんでした。反対側から見ると、あの女の子がブランコに座っているのが見えるのです。

私は背筋が凍る思いを抑え、公園の向こう側でポカンとこちらを見ている友人に、携帯で電話をしました。

携帯を取り出す私を見た友人は、すぐにバッグから自分の携帯を取り出し、私からの着信とほぼ同時に通話ボタンを押しました。

「もしもし、美佳? 一体何やってんの?」

「ごめん、お願いだから、ブランコの方見て。あの女の子がいるか見て!」

友人は怪訝な顔で、公園内のブランコの方を覗いて言いました。

「あれ? 女の子・・・いないね。」

私は確信しました。その女の子はなぜか、駅側の出入り口から入ると見えませんが、反対側から入った時だけ見えるのです。

私は怖かったのですが、なぜか公園の中に入り、女の子の方へと向かって歩いていました。

それを見た友人は、反対側の出入り口からしばらく携帯で私を止めようとしましたが、歩き続ける私を見て、私の方に向かって走ってきました。

「何やってんの美佳! 早く帰ろう!」

友人に腕を引っ張られながらその場を去ろうとした時、私にしか見えていない、その女の子が言いました。

「ちがうよ。朝からじゃないよ。 お母さんがいなくなってから、ずーっとだよ。」

とても小さな女の子の声とは思えないほど、低くこもった声でそう言って、初めて顔を上げた女の子の頬は瘦せこけ、両目は真っ黒にくぼんでいました。

私と友人は転がるようにして、一目散にその公園を後にしました。

その時、友人には女の子の姿も見えず、声も聞こえなかったそうです。

その後、私はその公園の前を通らないよう、遠回りして別の道を使って通学するようになりました。

それから3ヶ月ほど経ったある日のことです。

あの恐怖も少し薄らいできたので、私は久しぶりに元の通学路を通って帰ることにしました。

途中、あの女の子が住んでいると言って指差した古いアパートが、取り壊しの工事中になっていました。

友人の噂では、そのアパートには今から1年半ほど前、母親と2人で住んでいた小学生の女の子がいたそうです。

その母親がある日突然、一人で家を出て行った後、女の子は何ヶ月も母親の帰りを待ちながら、最期は部屋の中で餓死していたという事件があり、その後、ずっと部屋の借り手がつかなくなったため、アパートを解体することになったということでした。

3ヶ月前のあの時、私が見た女の子は、餓死したその子だったのでしょうか。

自分の無力さを痛感した私には、かわいそうな女の子の冥福を祈ることしかできませんでした。