神奈川県 会社員 水野 芳恵(34)(仮名)
これは、疎遠だった親友の紗和子から、13年ぶりに連絡があった時に体験した、ちょっと気味の悪い話です。
紗和子とは高校からの付き合いで、社会人になってからもずっと、お互いが生活の一部のような存在でした。
彼女には、高校2年の頃から交際していた、8歳年上の彼がいたのですが、正直、私はその彼のことを、あまり良く思っていませんでした。
私達が20歳になる少し前、彼女から「妊娠している」と打ち明けられました。
もちろん、その彼との子供です。
ところが、そのことを彼に相談すると、あろうことか彼は行方不明になり、一切連絡が取れなくなってしまったのです。
その後すぐに判明した事ですが、実はその彼には妻子があり、紗和子はそれを知らずに不倫をさせられていたのです。
そのことがショックだったからなのか、結局、紗和子はその後すぐに流産してしまいました。
短い間に妊娠、彼の失踪、不倫判明、流産と、一気に人生のどん底に落ちた紗和子を、私は何とか励まそうと努力しました。
でも、それからというもの、紗和子の性格はどんどん陰鬱になって行きました。
その後、彼女は仕事を辞め、引きこもりがちになり、私が訪ねて行っても、「一目惚れして買った」と言う市松人形を抱え、ずっとその髪を無表情で梳かし、まるで廃人のようになってしまいました。
親友を懸命に励まそうとしていた私も、別人のような彼女を見ることが次第に辛くなり、申し訳無さに苛まれながらも、自分の無力さに負け、少しずつ疎遠になって行きました。
それから13年の月日が流れた、ある日のことです。
休日に私が部屋の掃除をしていた時、携帯に電話がかかってきました。
登録がない番号だったので、出るのを少しためらいましたが、なんとなく見覚えがある番号だったので、思い切って通話ボタンを押してみました。
すると、電話の向こうから、
「・・・もしもし・・・芳恵?・・・」
かすれて消え入りそうな声ですが、私には聞き覚えがありました。
「え? 紗和子? 紗和子なの?」
久しぶりに聞く親友の声に、涙が溢れてきました。
彼女は申し訳無さそうに、私に頼み事があるので、彼女の家まで来てくれないか、と言いました。
電話を切ってすぐに、私は彼女の家に向かいました。
13年ぶりに訪れた彼女の住むアパートは、周囲に立ち並ぶ真新しい物件やマンションから取り残されたように老朽化していて、まるでそこだけタイムスリップしたようでした。
最近では見かけなくなったタイプの呼び鈴を押すと、ドアの隙間から、懐かしい顔が覗きました。
ただ、その容姿は、13年ぶりということを考えても、すっかり老けていて、見ようによっては60代か、ともすればおばあさんのようで、親友の変貌ぶりに、私はショックを受けました。
「来てくれてありがとう・・・ 中に入って」
ゴミ屋敷のような部屋を想像していた私は、綺麗に片付いた部屋の中を見て、少し安心しました。