大阪府 会社員 大畑 遵憲(35)(仮名)
私の家の家族は、全員霊感があります。
父にも母にも、姉にも皆霊感があり、それは両親とも、先祖代々、ずっと受け継がれてきたのだそうです。
そのおかげで、行ってはいけない場所や、これから起きる事故などから身を守ることができたり、知人の病気が進行する前にアドバイスをしてあげたりできるので、割とありがたい能力だと思っていましたが、その反面、とても不便なこともあるのです。
霊感が強い人は、バイクや車の免許が取れません。
なぜなら運転中、突然霊が飛び出して来ても、生きている人との区別が付かず、周りから見れば何も無いところで急ブレーキをかけると言った事が起きてしまうからです。
私も幼少の頃から自転車で同じような目に何度も会ってきましたから、今では走るより早く移動する際は、必ず誰かが運転する乗り物にしか乗れなくなってしまいました。
ただ、私以外の家族には、スイッチのようなものがあるらしく、霊視をしたい時にはスイッチをオンにして、普段はオフにすることができるようで、両親も姉も、車の運転ができるのですが、なぜか私にだけは、そのスイッチがありません。
その為、家族の中で私だけが、バイクや車の免許が取得できなかったのです。
そんな私が独自に手に入れた「オン・オフ」の切り替え方法は、家族の中で唯一、私だけがド近眼なのですが、メガネを外すとボヤけて見えるのが生きている人で、メガネを外してもはっきり見えるのが霊、というのが、生きている人と霊とを区別する唯一の方法でした。
それと、この能力は家族の誰にもないのですが、もうすぐ亡くなる人だけ、メガネを外して見るとはっきり見える、つまり、死期が使い人は「霊」の様に見えるという能力が、私にだけありました。
その事に気づいたのは、高校の担任の先生が亡くなる前のことでした。
授業中、何となくメガネを外すと、教室の中やクラスメイトはもちろんボヤけて見えるのですが、教壇に立っている担任の先生だけ、妙にハッキリと見えたのです。
その2週間後、担任の先生は、事故で突然亡くなりました。
今思えば、一言先生に「しばらく気を付けてください」と言えば良かったと後悔していますが、その出来事が、私の新しい能力を発見するきっかけになったのです。
そして私にはもう一つ、後悔していることがあります。
それは私が大学生だった時の話です。
その日は2時限目からの講義だったため、いつもより少し遅く、ホームの最後尾で電車を待っていました。
目にゴミが入ったのでメガネを外し、目をこすりながらふっと向かいのホームの乗客に目をやると、何人もの人が、ハッキリと見えたのです!
「え! 嘘やろ! こんなに!?」
何度もメガネをかけたり外したりして確認しましたが、先頭車両近くにいる、特定の数十人の人が、メガネを外してもハッキリと見えたのです。
高校生の時の担任の先生のこともありましたので、この事を何とか伝えるべきだとは思いましたが、「僕には霊感があって・・・」などと言う突拍子もない話など、一体誰が信じてくれるでしょう。
結局何もできないまま、私はいつもの電車に乗り、大学へと向かいました。
その後、電車が脱線事故を起こし、向かい側のホームで待っていた多くの人が亡くなったことは、その日のニュースで知りました。
霊感があることが、人生に必ずしもプラスに働くとは限りません。
あの時、何もできなかった事への後悔は、私の人生に、今でも暗い影を落とし続けています。