栃木県 会社員 橋本 英治(39)(仮名)
今から20年近く前の話です。
友人A、B、Cと私の4人で、肝試しに行くことになりました。
この4人はいつもつるんでいる、悪友グループです。
行き先は、車で20分ほど走った先の、地元で有名な廃病院でした。
実は、私はそこへ行くのが3回目だったので、あまり気が進みませんでしたが、見渡す限りの山と田畑に囲まれたド田舎に住む、女っ気もない私達にとって、そこは格好の遊び場で、他に行く場所もなかったのです。
「元は精神病院だった」
「関東最大の廃病院」
「呪われた廃病院」
「秘密の地下室がある」
などなど、そこには様々な噂がありましたが、今考えれば、どれも信憑性はイマイチです。
今と違ってその当時は、やっと携帯でメールができるようになった頃で、インターネットよりも口コミの情報が主流でした。
友人の車を近くに乗り付け、懐中電灯の明かりを頼りに、真っ暗な藪の中を100mほど歩いて行くと、突然パっと視界が開け、正面に異様な存在感を放つ廃病院が建っています。
3階建てで屋上があり、いわゆる「心霊スポット」としては、かなり趣(おもむき)がある佇(たたず)まいです。
私も初めて行った時は「怖い」と思いましたが、何しろ3回目でしたし、今まで1度も怖い経験をしたことがありませんでしたので、他の3人に比べると、少し冷めていたかも知れません。
藪を抜けて建物の入口の前まで来た時、私はあるアイデアを思い付きました。
4人一緒では面白くないので、一人ずつ順番に入って階段を登り、屋上に着いたら上から次の奴を呼ぶ、と言うルールです。
私以外の3人はここに来るのが初めてなので、きっと怖さ倍増です。
私は我ながら「良いアイデアだ」と思いました。
じゃんけんで順番を決め、最初に入ったのはAでした。
「おい。このままAだけ置いて、帰っちゃおうか」
下で待つ3人でそんなことを話していると、思ったより早く
「おーい!」
と、Aの声が聞こえました。
下から屋上にいるAの方を見上げると、手を振るAとは別に、何人か黒っぽい人影が見えました。