茨城県に住む、20代の女性Sさんの、これから大変なことになりそうな予感がする話です。
昨年の秋、大好きだった彼氏が突然、何の前触れもなく、自ら命を絶ちました。
その場所は、県境にある、赤い欄干が特徴的な橋でした。
自殺の名所でもあることから、心霊スポットとしても知られる場所で、彼はそこから20メートル下の河原に転落して亡くなったのです。
葬儀のとき、彼の母親から、なぜそんな事になったのか、私に原因があるのではないかと、一方的に責められましたが、私にも全く身に覚えがありません。
(私だって、彼のお母さんと同じくらい、悲しみのどん底にいるのに・・・)
その瞬間から、ある種の執念とも言える炎が、私の心の中で一気に燃え上がるのを感じました。
悲しみの矛先は、彼が亡くなった原因の追求に、すべて注ぎ込もうと思ったのです。
彼との過去のSNSでのやりとりや、何百枚も撮りためた写真を見返す中に、彼が亡くなった原因や何かしらのヒントがないか、寝る時間も惜しんで、徹底的に調べる日々が始まりました。
彼から送られてきたメールやSNSの文章を一字一句、何度も読み返し、写真も一枚一枚拡大して隅々まで確認して、何か少しでも、彼の死の真相に近づけるような要因はないかと探し続けました。
生前、私が彼の写真を撮ろうとすると、彼は恥ずかしがって、すぐに私が構えるスマホに向かって顔を近づけて来るので、保存されている写真の半分は、おどけた表情で画面全体に写る、彼のアップの写真でした。
それらの写真を拡大すると、彼の瞳の中には、私がスマホを構える姿がいつも映り込んでいました。
「あの時は楽しかった・・・ この時は幸せだった・・・」
悲しみに押しつぶされそうになりながら、懸命に写真を見返していると、彼が亡くなる直前に撮った1枚の写真に、ちょっとした違和感を感じました。
その写真も、他の写真と同じく、彼のアップの写真だったのですが、拡大してよくみてみると、彼の瞳の中に、スマホを構えた私は写っておらず、代わりに、上から落ちてくる彼を待ち構えるように、不気味な笑顔で両手を広げ、下からこちらを見上げる、見知らぬ女が写っていました。
彼と私のスマホとの間に、別の人が写り込むことなんて、状況的に考えられません。
第一、そんな場面が彼の瞳の中に映ることなど、物理的にあり得ません。
「この女・・・誰なの? ここは・・・どこなの?」
八方手を尽くして、さらに徹底的に調べ上げ、漸くたどり着いたのは、今は使われなくなった、彼の古いSNSのアカウントでした。
その中には、元カノと思われる女の子と、仲睦まじく写真に映る、何年か前の彼の写真が、大量に出てきました。
見たくないと思う反面、見ないといけないという、執念にも似た感情が、私を突き動かしました。
そして、何時間もかけて大量の写真とメッセージを確認していく中で、私は一枚の写真に、愕然としました。
それは、彼が亡くなった赤い欄干の橋をバックに、楽しそうに二人で写っている写真でした。
彼の左手の薬指にはアルファベットの「I」が、元カノの左手の薬指にはアルファベットの「U」の文字が刻まれています。
彼の名前は、優しいと書いて「ユウ」です。
そして、元カノの名前が「亜依」・・・
二人はそれぞれ、お互いのイニシャルのタトゥーを、左手の薬指に刻んでいたのです。
私が以前、彼の左手の薬指にある縦線のタトゥーについて、何度かその意味を訊いてみたのですが、その都度彼は「意味なんてない。ただのファッションだよ」と言って誤魔化していたのは、そういうことだったのです。
(やっぱり・・・見るんじゃなかったな・・・)
それでも、私はやはり、彼の死の真相を知りたいと思いました。
そこからさらに調べを進めていくと、彼の元カノの友人と、コンタクトを取ることができました。
その娘の話では、元カノは、彼にフラレたことがきっかけで、あの赤い欄干の橋から飛び降りて、自ら命を絶っていたということが判明したのです。
そしてそこは、彼が自ら命を絶ったのと、まったく同じ場所だったのです。
やはり、私の予想通り、彼の瞳の中に映っていた不気味な女は、その元カノだということが判明しました。
そもそも、元カノが彼にフラレた理由は、元カノの浮気とギャンブルが原因だったということなので、自業自得なのですが、彼にフラレてから暫くの間は、人が変わり、彼のストーカーになってしまったそうです。
私は、彼の生前最後の写真の瞳に映り込んでいる、元カノに向かって叫びました。
「てめぇ! ふざけんなよ! ユウをアンタみたいなクソアマに奪われるなんて、絶対に許さない!!」
私は今、奪われた彼の魂を、元カノから取り戻すためにはどうしたらいいのか、その方法を手を尽くして調べているところです。