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お姉ちゃんの記憶

お姉ちゃんの記憶

滋賀県に住む女子高校生Nさんの、不思議で怖くて、ちょっと悲しい記憶です。

この話は、私がまだ幼稚園に行く前のことですから、3歳か、4歳くらいの時のことだったと思います。

当時、両親は農業をしていて、毎日とても忙しかったので、幼い私の面倒を見てくれていたのは、もっぱら同居していた祖母でした。

その祖母も、繁忙期には仕事を手伝っていましたので、そんな時に私の遊び相手になってくれていたのは、11歳の時に事故で亡くなった、私のお姉ちゃんでした。

お姉ちゃんとは、古くて広い家の中で、かくれんぼや鬼ごっこをしたり、庭で虫を獲ったり、お花を摘んだりして遊びました。

少し歳が離れていたこともあって、お姉ちゃんはとても優しく、私のことを「なっちゃん なっちゃん」と呼んで、とても可愛がってくれました。

私はそんなお姉ちゃんが大好きで、一度もケンカや言い争いをした記憶がありません。

幼い私から見ても、お姉ちゃんはとてもキレイで、私の憧れの存在でもありました。

そのお姉ちゃんとの思い出の中で、一番印象に残っているのは、ある日、母屋の階段付近に突如として現れた、幽霊を見た時のエピソードです。

その日、私はお姉ちゃんと二人で、母屋の中でドタバタと追いかけっこをしていました。

お姉ちゃんが、勢いをつけて走ってから、黒光りする廊下の板の上をスーッと滑って見せたのを真似したかった私は、何度かチャレンジしましたが、うまく滑りません。

その時、お姉ちゃんに「靴下を履いてみたら?」と言われ、2階の洋服ダンスに靴下を取りに行こうとした時、階段の上に、白い着物を着た女の人が立っているのが見えました。

逆光だったので、表情までは見えませんでしたが、真っ黒な長い髪に、真っ白な足袋を履いているのが印象的でした。

その姿を階段の下から見上げていると、その女性はゆっくりと階段を降りてきました。

私は、その女性を見ながら、「この人、だれだろう?」と不思議に思っていました。

私はまだ幼かったので、その状況を特に怖いと感じることもなく、むしろ、その女の人がどいてくれないと、階段を上がって靴下を取りに行けないことに困惑していました。

初めて見るその女性が、階段を降りてくるのをじっと見ていた時、いつの間にか私の後ろに立っていたお姉ちゃんが、突然叫びました。

「なっちゃん!それ、幽霊やで!!」

そう言われた瞬間、私の中で、突然「怖い」という感情が一気に爆発して、お姉ちゃんと手を繋いで全速力で廊下を走り、階段から一番遠い和室の、押入れの中に逃げ込みました。

二人で抱き合ってブルブル震えながら、それでもお姉ちゃんと一緒にいるという心強さもあり、何だかちょっと楽しくて笑ってしまうような、やっぱり怖いような、複雑な感情が心の中で葛藤していました。

じっと息を殺して、しばらくしてから押入れの襖を少しだけ開けて、隙間から部屋の中の様子を窺ってみましたが、あの女性の姿は見当たりません。

意を決してそ〜っと襖を開けて、ふたりでぴったりと寄り添いながら押し入れから出て、柱の影から女性がいた階段につながる廊下の先を覗いてみると、そこにはもう、女性の姿はありませんでした。

「これはママに言わなきゃ!」

そう思った私は、母屋の裏で畑仕事をしている母のところまで走り、たった今、お姉ちゃんと二人で幽霊を見た話を、拙い言葉で一生懸命説明しました。

すると母は、手拭いで手を拭きながら私の正面にしゃがんで、私の両肩を優しく持って、私の目をじっと見据えながら、ゆっくりと諭すように話し始めました。

「なっちゃん・・・あなたのお姉ちゃんは、あなたが生まれる前に亡くなっているから、今はもう、いないのよ」

その瞬間、私はハッと気付きました。

そういえば、私はお姉ちゃんと一緒に、ご飯を食べたことも、お風呂に入ったことも、一緒に寝たこともありません。

幼かった私は、そういったことを、特におかしいとも思わなかったのです。

それからというもの、階段の幽霊は何度か出てきたのですが、とても残念なことに、大好きだったお姉ちゃんは、その日を境に、2度と出てきてくれなくなりました。

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この怪談を書いた人

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