怖い話

東京都 接客業 小久保綾子(26)(仮名)

私が以前働いていたお店での体験談です。

前のお店を辞め、このお店に入ってから3ヶ月ほど経ち、少しずつ指名ももらえるようになってきた頃でした。

常連さんの中には、時々変わったお客さんがいて、

「ねぇアイちゃん。なんか怖い話、聞かせてくれない?」

というリクエストが上がることがあります。

「アイ」は私のお店での源氏名です。

中にはお客さんと会話をすることを嫌う娘もいますが、私はどちらかと言うと、お客さんとの会話を楽しめる方だったし、時間が延長になる可能性も高くなるので、そんなリクエストがあった時には、いくつかある持ちネタの一つを披露することにしていました。

その日のリクエストには、同じ業界で働く、友人のYちゃんから聞いた怖い話をしました。

その手の話をする時、私はさも自分の体験談のように話すのが得意でした。

それは、こんな話です。

その日は夜12時を回った頃だったかな。

3本目のお客さんをお見送りした後にね、次のお客さんの準備をしてたの。

サッとシャワー浴びて、浴室とベッド片付けて、身だしなみ整えてたらね、クンクンって、なんか少し焦げ臭い感じがしたのよ。

実はね、4年くらい前だったかな?、ここのちょうど隣のビルで火事があってね、同業者の女の子もお客さんも、何人も亡くなっちゃったのね。

あたし、その話思い出して、ちょっと怖かったから、フロントの店長さんに確認したんだけど、「火事なんかないよ。ダイジョブダイジョブ」って言われたの。

それでもう一回、鏡の前に座って、ドライヤーで髪の毛乾かしてたら、電気がパチパチッて、点いたり消えたりしたと思ったら、急にバツン!って真っ暗になったの!

「やだもう!怖~い!」と思って、しばらく電気が点くの座ったまま待ってたら、部屋のそこの出口の非常灯あるじゃない? そこの緑色の光で、ボーッと誰か立ってるのが鏡越しに見えたの!!

一瞬「お客さん?」と思ったんだけど、そんなはずないし、もうあたし怖くて怖くて、そっち振り向けないの。

それで右手にドライヤーと左手にブラシ、こうやって髪に通したまま固まってたら、ちょっと目が慣れてきて・・・・そしたらそれが少しずつ見えてきたの!

それね、私達と同じようなベビードール着て、髪がチリジリに短く焼け焦げてて、顔も半分真っ黒焦げの女の子なの!!

それでね、その子、寂しそうな声で、鏡越しにあたしに・・・

「イイナァ・・・ ナガイ・・・ カミ・・・ キレイ・・・」

って言いながら、手を伸ばして、あたしの髪の毛触ろうとして、こっち来たのよ!!

あたし、持ってたドライヤーとブラシ放り投げて、フロントに「助けてー!!」って猛ダッシュよ。

店長さんに「ああでこうで」って事情を説明したんだけど、

「ふふん。アイちゃん、ここんとこ人気だから、ちょっと疲れてんじゃない?」

って、ちょっと小馬鹿にしたような顔するからすっごいムカついたんだけど、「とにかくあたしの部屋見に来て!」って、2人で部屋の中確認しに戻ったんだけど、そん時には電気も点いてて、女の子もいなくなってたのよ。

あとで店長さんに聞いたんだけど、停電したのって私の部屋だけだったんだって。

でね、店長さんいわく、確認に2人で部屋に入った時、店長さんも確かに焦げ臭いなと思ってたんだって。

ね? 怖くない?

この話をすると、どのお客さんも百発百中で、恐さのあまり「萎えちゃう」らしいんです。

その日もこの話で盛り上がって、お客さんを送り出し、次の準備をしていると、バチバチッと部屋の電気が点滅したかと思うと、バチッ!と停電になりました。

「やだこれ、Yちゃんが話してくれたやつだ!!」

すると、気のせいかも知れませんが、なんとなく焦げ臭いニオイがしてきます。

「あーん、怖い話なんて、しなきゃよかった・・・」

後悔する私の耳元で

「ソレ・・・ワタシ ノ コト?」

と言う声がしたのです!

一目散にフロントにいる店長さんのところまで走り、助けを求めると、店長さんは眉一つ動かさず、冷静な口調で言いました。

「あぁ、あの部屋ね。まぁ、危害は加えないから、ダイジョブダイジョブ」

「・・・ダイジョブダイジョブ じゃねぇだろう・・・」

私はその後すぐ、他のお店に移りました。

後で分かったことですが、その怖い話をしてくれたYちゃんが以前勤めていたのは、実はその同じお店だったそうです。

それからというもの、お客さんから怖い話のリクエストがあっても、

「えー、怖い話なんてないですよー」

と、お断りするようにしています。

彼女は、そこに「いた」のではなく、今でもそこに「いる」のです。