埼玉県に住む20代の女性会社員Eさんが、母親との約束を破ったことで起こった恐怖体験談です。
小学5年生の秋、2泊3日の林間学校に行った時の話です。
初日の夜、興奮でなかなか寝付けなかった私たちは、同じ部屋の4人で「夜の女子会」を楽しんでいました。
トークの話題は「ウチだけの不思議なルール」でした。
Aちゃんの「ウチだけの不思議なルール」は、洗濯物を裏返しで洗濯機に入れると、そのまま干され、たたまれ、仕舞われるという厳しいものでした。
Bちゃんの「ウチだけの不思議なルール」は、沖縄出身の両親の影響で、冬場でもほとんど湯船にお湯を溜めることはなく、シャワーだけで入浴を済ませるというもの。節水、省エネになるから悪くないなと思いました。
Cちゃんの「ウチだけの不思議なルール」は、マヨネーズやケチャップを使った後は、各々先っちょをぺろっと舐めてから蓋を閉めるというエピソードで、これには全員、ドン引きしました。
最後に私の番になったのですが、特に面白いエピソードもなく困っていると、1つだけ思い出した事がありました。
幼少の頃から、母の言うことを聞かなかった時などは、母に「チサコガクルヨ」と叱られた事を思い出したのです。
それは、叱られると言うより、脅されるに近い雰囲気でした。
すると、その話を聞いた3人の友人は、まるで怪談のように聞こえたようで、あまりウケは良くありませんでした。
でも、その話をした後、私は大事なルールを破ってしまったことに気づきました。
そのルールとは、母親から何度も言われていたもので、「チサコの話は、他所で絶対にしてはダメ!」というものでした。
ついうっかりとは言え、既にもうしゃべってしまったので、気まずい気持ちにはなったものの、Cちゃんのマヨネーズの話よりはマシだと思うことにしました。
女子トークは盛り上がったのですが、深夜12時を回った頃には、昼間の登山でさすがに皆、疲れていたのか、いつの間にか眠ってしまいました。
どのくらい眠った頃でしょうか。
夜中にふっと目が覚めた私は、部屋の中の雰囲気が変わっているような気がしました。
部屋中の空気が重いというか、澱んでいるというか・・・なんとも言えない嫌な空気です。
「疲れてるのかな? 明日も早いから、眠らなくちゃ・・・」
そう思えば思うほど、部屋の嫌な空気が気になって眠れない私は、特に行きたくもなかったのですが、気分転換にトイレに行こうと、枕元のメガネをかけました。
メガネをかけて視界がクリアーになると、天井に何かがフワフワと浮かんでいます。
目を凝らしてみると、それは、天井いっぱいの巨大な女性の顔でした。
その顔は、私たち全員をギョロッとした目で、順番に睨みつけています。
左右を見ると、私の両脇で寝ている3人は皆、目を大きく見開き、天井の顔を凝視したまま、口からブクブクと泡を吹いています。
私は直感的に「これがチサコだ!」と思いました。
私はすぐに部屋を飛び出し、先生の部屋に駆け込んで、同室の3人の様子がおかしい!と訴えました。
すぐに様子を見にきてくれた先生は、その症状から食中毒を疑ったらしく、3人とも救急車で病院に運ばれていきました。
「Eさんは? 大丈夫なの?」
先生が心配してくれましたが、「チサコが来たせいです」とも言えず、「私は・・・大丈夫です」としか言葉が出ませんでした。
その日の夕方には3人の体調も回復し、宿に戻ってきたのですが、3人とも昨晩のことは全く記憶になく、自分たちがなぜ病院に運ばれたのか、理解できていない様子でした。
それから何年か経って、母に「チサコ」のことを聞いてみたのですが、途端に機嫌が悪くなり「そんな話は知らない。もう二度と聞かないで!」と、ものすごい剣幕で叱られたので、それ以来、「チサコ」の話をすることはありませんでした。
一体「チサコ」とは誰なのでしょうか。