初めのうちは調子が良かったのですが、夜中の2時を過ぎたあたりから睡魔との戦いとなり、まぶたの重さに耐えられなくなってきたその時です。
ベッドの上で仰向けになっていた私は、これもまた人生初の「金縛り」を経験したのです。
「怖い・・・苦しい・・・」
怖さと息苦しさで、このまま気絶してしまいたいと思っても、意識だけははっきりしていました。
すると、部屋の外で、トン、トン、トン、トン、と、誰かが近付いてくる足音が聞こえます。
「絶対あの男の子だ!!」
ベッドの上で何とかして体を動かそうともがいていると、
ギィィィィィーーーー!
と開いた部屋のドアの向こうに、青白い光を放って、あの男の子が立っていました。
「やだ!怖い!来ないで!!お父さん!お母さん!!」
私は必死にもがき、叫ぼうとしましたが、声も出ません。
すると、男の子は口元に薄ら笑いを浮かべながら、ゆっくりと部屋の中に入ってきて、ついには私のお腹の上に乗ってきました。
ドンドンドンドンッ!!
男の子は突然両手で、息ができなくなる程の強い力で、私の胸を叩きました。
「ネェ!アソボッ!アソボウヨッ!」
そう言いながら、今度は私の首を、両手で絞めてきました。
「やめて・・・苦しい!!」
私は声にならない声で、必死に叫び、動かない体で懸命にもがきました。
すると、男の子の両方の目玉が、ボトリ、ボトリと私の上に落ちたかと思うと、窪んだ真っ黒な目の穴から、弟が見つけたのと同じ100円硬貨が、ジャラジャラと音を立てて湧き出てきたのです。
その時、右手に持っていた母のスマホのことを思い出し、少しだけ動く指先でイヤホンのコードを引き抜きました。
すると、見ていた動画の音声が部屋の中に響き、その瞬間、男の子はスーッと消えて、金縛りが解けました。
その後はもちろん一睡もできず、朝が来るのをじっと待ちました。
その日、午前中から引越し業者さんが来て、私たちは待ちに待った新居へと向かいました。
玄関、廊下、壁、床、天井、新築の木の匂い・・・
全てがあの家とは大違いです。
「良かった・・・今日からまた、グッスリ眠れる」
私は心からホッとして、あの忌まわしい記憶は、できるだけ早く忘れてしまおうと思いました。
ほとんど徹夜明けで、時々睡魔に襲われながらも、頑張って片付けを済ませ、夕飯に出前を取りました。
夜になって「今日はもう一旦休もう」ということになり、私は楽しみにしていた真新しいお風呂に浸かって、体をゆっくり休めようと思いました。
脱衣所で着ていたTシャツの襟元に手をかけて脱ごうとした時です。
襟元から自分の胸元を見た瞬間!あの男の子がTシャツの中から、しがみつくようにして私を見上げていたのです!
「ツイテ・・・キチャッタ・・・」
その後、気を失っていた私を見つけてくれたのは、お風呂から上がってこない私を心配した母でした。
あとで分かったことですが、弟が宝物だと言っていた積み重ねられた硬貨は、ある地方では、霊や魔物を封印するためのものなんだそうです。
だとすると、弟が崩してしまったあの硬貨の山は、あの男の子を封印するためのものだったのでしょうか?
それ以来、男の子が出てくることはなくなりましたが、封印を解いてしまった以上、またいつか出てくるのではないかと思うと、心配で仕方がありません。