その日の夜のことです。
私の部屋は、階段を上がった廊下の突き当りにありました。
夜中にのどが渇いた私は、2階の廊下の突き当たりにある私の部屋から、階段を降りてキッチンへ向かおうとしたのですが、階段の途中から見える玄関に、何だか真っ黒な闇が広がって蠢いているように見え、とても怖く感じたので、自分の部屋に引き返しました。
何故だかは分かりませんし、上手く説明もできませんが、とにかくその時、今まで感じたことのない恐怖を感じたのです。
ベッドの中に潜り込み、そのまま眠りにつくと、いつの間にか夢を見ていました。
その夢は、とてもリアルで、怖い夢でした。
私が部屋から出て階段を降りて行くと、丸坊主でランニングシャツ、カーキ色の短パンを履いた、映画で見るような、いかにも昭和風の男の子が、玄関に立っているのが見えました。
私はその子を、階段の途中から見下ろしています。
男の子の口元は、何かをブツブツとつぶやいているようでした。
すると突然、その男の子がパッと私の方を見たかと思うと、人間とは思えない程の、ものすごい勢いで玄関から階段を駆け上がり、飛ぶようにしてこちらに向かってきたのです。
私は慌てて自分の部屋に戻り、部屋の鍵をかけてベッドの中に潜り込んだその瞬間、
ドンドンドンドンッ!!
家全体が揺れるほどの勢いでドアを叩いてきたかと思うと
「ネェ!アソボッ!アソボウヨッ!」
ドアの向こうから猛獣のような声で叫んできました。
「いやーーーーーっ!」
その時、私はあまりの怖さで、泣きながら飛び起きました。
その翌日の夜も、同じ夢を見ました。
前日の夢と少し違ったのは、男の子が初めから階段の下まで来ていたことです。
更にその翌日の夢では、男の子は階段の途中まで上がって来ていました。
その翌日は階段を上がりきった廊下に。
さらにその翌日は、ドアを開けてすぐ、私の部屋の正面に。
そしてその次の日、男の子はとうとう、私の部屋の中に立っていました。
毎晩、リアルで怖い夢だったので、
「ちょっとずつ近付いてる・・・明日はどうなっちゃうんだろう・・・」
そんな心配が脳裏をよぎりました。
それでも、引っ越しまではあと1日です。
「オバケ屋敷もあと1日。あとひと晩だけ怖い夢を我慢すれば、明日は新しいおウチだ!」
そう自分に言い聞かせ、このオバケ屋敷で過ごす最後の夜を迎えました。
でも、さすがに眠る気にはなれません。
そこで母に「今晩だけ!」とお願いしてスマホを借り、産まれて初めての徹夜に挑戦することにしました。