左上から501号室、502号室、503号室と、順番にポスティングしていくと、401号室のポストだけ、まるでチラシを入れることを拒否するかのように、グニャッと押し返すような抵抗があったのです。
時々、長期間不在にしている家のポストには郵便物がギッシリと詰まっていて、チラシが入りにくい場合があります。
でも、そのポストの感触は、それとは違う、何か妙な手応えというか、違和感がありました。
ポスティング歴わずか数日の私が言うのもおこがましいのですが、この仕事はスピードが命です。
ポストに入らなければ、すぐに諦めて次へ移るのが当然の流れなのですが、私はなぜかその時感じた違和感の原因を探ってみたくなったのです。
あまり褒められた行為ではないことは承知の上で、私は指先でポストの口を押し開けて、中を覗いてみました。
すると、真っ黒な闇の中で、2つの目が私を睨みつけたのです!!
振り向きざまに私を睨んだその目は、ゆっくりと瞬きをしたので、断じて先に入っていたチラシのデザインなどではないと確信しました。
その目はかなり化粧の濃い女性の目で、場末のバーのママさんのような印象で、今でも脳裏に焼き付いています。
私は、生まれてはじめて仕事を途中で投げ出し、残りのチラシを持ったまま、慌てて家に帰りました。
今でも月に数日、ポスティングの仕事は続けていますが、その事があって依頼、その団地のJ号棟は避け、投函の際少しでも抵抗があるポストは飛ばすことにしています。