神奈川県 高校生 Hさん(10代・女性)の背筋も凍る恐怖体験談
私は幼い頃から憑依体質で、いろんな人の霊が憑いてくることが多かったんです。
憑いてくる人は決まって一瞬目が合うので、多分それで「この娘は自分を認識している」と判断するのでしょう。
私の母も霊感体質でしたので、ある意味それは遺伝なんだと思います。
母には憑いて来た霊を追っ払ったり、何をして欲しいのかを感じたりする能力があるのですが、私にはそんな力はありません。
ただRPGのキャラクターのように、後ろにズルズルと見ず知らずの人の霊を引き連れて歩くだけです。
物心ついた時から備わっていた、この何の役にも立たない能力は、私にとっては無用の長物でした。
ある日、私が幼稚園から帰って来た時のことです。
「このひと、だれだろう? どうしてついてくるのかな?」
私がそう思った時は、決まって母が玄関先で塩を撒いて、ついて来た人を「消し」ました。
そんなことがしょっちゅうあったので、その当時の私は「おウチに入る前は、ママがお塩を撒く」のが当たり前だと思っていました。
小学生や中学生になってからも、帰宅した際、母に「またそんなヒト連れて帰って・・・」と愚痴られながら、玄関先で塩を撒かれることは、もう日常茶飯事でした。
大きくなるに従って、それは特別なことだと理解したものの、やはり何の役にも立たない能力であることには変わりありません。
見ず知らずの人(の霊)を引き連れて帰ってくると、母が塩を撒いて撃退する・・・
いつまで経っても、相変わらず私は亡くなった人の声が聞こえるわけでも、成仏できるように念仏を唱えられるわけでもありませんでした。
それでも、大抵の人は玄関で母に塩を撒かれた時点で消滅するか、長くても1週間ほどでいつの間にかいなくなります。
特に実害はありませんでしたが、だからといって見ず知らずの人(の霊)と一緒にいるのは、あまり気分の良いものではありません。
そのため、例えば交通死亡事故の現場などがあれば、どんなに遠回りでも、できるだけその近くを通らないように気を付けていたんです。
ところが、高校2年生だったある日、とんでもないことになっちゃったんです。
部活終わりに友人の朱夏と一緒に帰っていた途中で、私たちは踏切の手前で遮断機が開くのを待っていました。
遠くに電車のライトが見えた時、私と反対側で待っている人の中から、遮断機をスッと潜って、踏切の中に入り込んだ人が見えたのです。
白いワンピースを着たその女性は、そのままツカツカと迫り来る電車の方に向かって、線路内を歩き始めました。
その時、ほんの一瞬、私は彼女とチラッと目が合ったような気がしました。
私も朱夏も、遮断機の手前にいた数人は、しばらくの間、何が起こっているのか、理解が追いつきませんでした。
ややあって、周囲の人たちが漸く状況を飲み込み、線路内を進む女性の目的を理解した瞬間から、口々に叫び声が上がりました。
「わーっ!」
「危ない!」
「やめろ!」
周囲の人々が制止する声も虚しく、その女性のしっかりとした足取りは、彼女の決意の固さを物語っていました。
誰かが押した非常停止ボタンも間に合わず、列車は断末魔の悲鳴のような金属音を響かせ、周囲を焼けた鉄の臭いが包みました。
女性を巻き込んだ急行列車が停まったのは、最後の車両が踏切を越えたずっと後でした。
その踏切は以前から自殺が多い場所で、私が知るだけでも3人は亡くなっています。
ただ、目の前でその一部始終を目撃したのは、この時が初めてでした。
(一瞬目が合ったし、あの人絶対、私に憑いてくる!!)
私はすぐ朱夏に「逃げて!」と告げると同時に、左側にいた彼女の手首を掴んで、今来た道を走って戻りました。
突然のことに朱夏は「ちょっと待って!ちょっと待って!」と私の背後から叫んでいます。
それでも私は一心不乱に彼女の手首を引っ張って、少しでも現場から遠ざかろうと懸命に走りました。
すると、走っている時は必死だったので気付かなかったのですが、現場から離れるに従って少し冷静になると、彼女の声がだんだんと後ろに下がっていくような気がします。
走りながら振り返ってみると、朱夏は私よりずっと後ろを走っていました。
「じゃあ、私が今掴んでいるのは・・・?」
恐る恐る自分の左手を見ると、私が掴んでいたのは、女性が電車に飛び込んだ際にちぎれ飛んだものと思われる、肘から先の、血が滴る、まだ生暖かい腕でした。
これではまるで、私が飛んできた腕を拾って、走って逃げたも同然です。
漸く追いついた朱夏は、私が持っているモノを見て、悲鳴をあげてその場にしゃがみ込みました。
その時、自分でも驚くほど冷静だった私は、朱夏に「ちょっと待ってて!」と言い残し、今すぐこの腕を捨ててしまいたい気持ちをグッと堪えて、事故現場に走って戻りました。
騒ぎを聞きつけて集まって来た近隣住民の人だかりをかき分け、現場の最前列まで行ったところで、私は持っていた腕を足元にそっと落とし、いかにもそこに落ちていたように装って、事なきを得ました。
その時、周りにいた人はパニックになっていました。(ごめんなさい)
警報音が鳴り響く遮断機の中で、白いワンピースの女性(の霊)がこちらを向いて佇んでいましたが、私は目を合わすことなく、気付かないふりをしてそっとその場を離れました。
それにしても、偶然飛んできた腕を無意識に掴むなどと言うことは考えられません。
あの女性はきっと、電車に跳ねられる直前に「やっぱり死にたくない!」と思い直し、私に腕を引っ張って助けて欲しかったんだと思います。
結局、その女性が私に憑いてくることはありませんでしたが、あの時掴んだ手首の感触は、1年以上経った今でも鮮明に覚えています。