長野県 丸山佑輔さん(10代・高校生)の恐怖体験談
半年ほど前、友人Aの家に遊びに行った日のことです。 その日、僕はAの部屋で、生まれて初めて「見てはいけないもの」を見てしまいました。
Aとは、中学からの同級生でした。同じ市内の高校に進学してからも、よく一緒に遊ぶ仲でした。
小遣いがあるときはカラオケに行ったりもしましたが、金欠になると、たいてい僕の家で過ごしていました。二人でくだらない話をして盛り上がる、それだけで十分楽しかったんです。
ある日の放課後のことです。
その日はたまたま、母の知り合いが家に来る予定がありました。お金もなかったし、遊ぶ場所に困っていると、珍しくAのほうから言ってきました。
「じゃあ、ウチ来るか?」
Aの家に行ったことは、それまで一度もありませんでした。僕は喜んで、その案に乗りました。
Aの家は、学校から自転車で20分ほどの場所にありました。
促されるまま部屋に通されると、僕は早速、Aの部屋の中をぐるっと見回しました。ベッドと机、小さなソファーがあって、割ときちんと片付いた、いかにもAらしい部屋です。
ただひとつ、ソファーの向こう側に襖があって、そこから隣の部屋に出入りできないようになっていることに、なんとなく違和感を覚えました。
出された麦茶とスナック菓子をつまみながら、いつものくだらないバカ話に興じていたときです。
隣の部屋から、音がしました。
「ゴトッ・・・ ゴトゴトッ!」
Aの家には誰もいないと思い込んでいた僕は、思わず聞いてしまいました。
「あれ? 誰かいるの?」
Aは、小さな声でぼそっと答えました。
「あぁ、あれ? 姉ちゃん・・・」
Aは一人っ子だと、勝手に思い込んでいました。だから、その一言に驚いて、自分でも驚くくらい大きな声を出してしまいました。
「え?! お前、お姉さんがいたの?!」
慌てて自分の口を手でふさいだAでしたが、時すでに遅し。Aはまたぼそっと、下を向いたまま答えました。
「うん・・・」
正直に言うと、僕のテンションは爆上がりでした。
高2の男子が、友達のお姉さんに興味がないわけがありません。
名前は? 年齢は? 仕事は? 身長は? 体重は? 似てる芸能人は?――必死に聞き出そうとしたんですが、Aは口ごもったまま、何ひとつ答えてくれません。
そのとき、襖の向こうから、聞こえてきたんです。
「ンフッ・・・ フハハハッ・・・」
微かに、でも確かに、少し子供っぽい笑い声でした。
「お姉さん、誰かと携帯で話してるのかな」
妄想は、膨らむ一方でした。
でも、Aはその話題になるといつもはぐらかして、全く乗ってきません。
会話を続けながらも、頭の片隅では、襖の向こうを覗くチャンスをずっと窺っていました。
しばらくすると、Aの携帯が鳴りました。
「もしもし・・・ え? うん。 今、友達来てっから。 何で? 大丈夫だよ。 あ? う、うん・・・」
たぶん、お母さんからの電話だったんだと思います。聞かれたくない話だったのか、Aは通話を続けながら、ゆっくりと部屋を出ていきました。
「よっしゃーっ! チャーンス!!」
こうなると、高2男子の欲望に歯止めはききません。
ソファに後ろ向きに座って、バレないようにそっと襖を開け、隣の部屋を覗いてみました。
雨戸が閉まっているのか、部屋の中は真っ暗でした。開けた襖から、光だけがまっすぐ差し込んでいきます。
ドキドキしながら、目が暗さに慣れるのを待っていると――部屋の左隅に、小さな明かりが灯っているのが見えました。
さらに目を凝らします。それは蝋燭の形をした、仄暗いライトでした。ゆらゆらと揺れる頼りない光に浮かび上がっていたのは、小さな仏壇です。
よく見ると、仏壇にはお菓子やジュースがたくさん供えられていました。横のテーブルには、幼稚園か小学生くらいの、小さな女の子の写真が飾ってあります。
「あれ? 誰もいない」
そう思いながら、なおも目を凝らしていると、なんだか辺り一帯が、ゆらゆらとぼやけて見えてきました。
蝋燭のせいか、自分の目のせいか。一度強く目をつぶって、もう一度、部屋の中を見ました。
僕のすぐ目の前――手を伸ばせば届きそうな距離に。
半透明の女の子が、小さなボールを持って、スキップをしながら部屋の中をぐるぐる回っていました。
視界が歪んで見えていたのは、半透明のその子が動き回っていたせいだったんです。
息を飲んだ、その瞬間でした。
くるっとこちらを向いたその子の顔は――鼻から頭の横にかけて、ざっくりと欠けていました。
「 !? 」
次の瞬間、女の子はふわっと消えていなくなり、持っていたボールだけが、床の上を弾んで、僕のほうへ転がってきました。
「トン・・・・ トン・・・ トントントトン・・・」
「やべぇ・・・ 絶対見ちゃいけないモノを見てしまった・・・」
そう思いながら、そっと襖を閉めました。
振り返ると、いつの間にか部屋に戻ってきていたAが、険しい顔で、僕を睨んでいました。
「うわっ! ご・・・ ごめん・・・」
その後、Aは話してくれました。
13年前、事故で亡くなったお姉さんのことを。
それからというもの、今でも月命日になると、お姉さんが隣の部屋に遊びに出てくるのだそうです。
僕が遊びに行ったあの日は、ちょうど、お姉さんの月命日でした。


