神奈川県 運送業 Kさん(20代・男性)が友人と体験した実話怪談です。
昨年の秋、私と友人が実際に体験した出来事です。
それは月に1、2度のペースで開催される、仲間内でのツーリングの日でした。
その日に集まったのは全部で5名。計画は1泊2日の小旅行です。
各々自慢の愛車に跨り、朝7時に県内に住む友人Aのマンションの駐車場前に集合して、静岡県の下田まで行き、1泊して伊豆半島を周遊しながら美味しい海鮮を食べまくり、帰りがけには温泉に立ち寄る計画でした。
初日は天候にも恵まれ、気持ちの良いツーリングを楽しんでいたのですが、その翌日、いざ帰りの温泉へというところで、天気予報に反して突然の雷雨に見舞われた私たちは、一旦道の駅で緊急避難を余儀なくされました。
その際、皆で話し合った結果、その日はそのままAのマンションまで、休憩なしで帰ることにしました。
雨が小降りになったタイミングで道の駅を出発したのですが、周りが複雑な山に囲まれた地形のせいか、突然激しく降ったり、かと思うと小降りになったりを繰り返し、バイク乗りにとっては最悪のコンディションが続きました。
技術的に一番上手なSが常に最後尾を走る役回りで、先頭を走るのは私の担当だったのですが、その時は余裕がなかったので、皆がちゃんと付いてきているかどうかも分らず、とにかくAのマンションを目指してひたすら走っていました。
やっとの思いでずぶ濡れになりながらAのマンションに辿り着くと、程なくして3人が到着しましたが、最後尾を走っていたはずのSの姿だけがありません。
本来ならSの到着を待つべきところでしたが、皆びしょ濡れであまりにも寒かったのと、一番運転技術の優れたSのことですから、特に心配することもなく、皆でAの部屋まで行って、体を乾かしながらSを待つことになりました。
「それにしてもS、遅いな」
「どっかですっ転んだんじゃねぇの?」
「泊まりだったから着替えがあってよかったよ」
そんな軽口を叩きながら、ふと携帯を見ると、何度もSからの着信があったことに気づきました。
嫌な予感がして、慌てて折り返しの電話をかけようとした時、突然Aが声を荒らげたことで、電話の折り返しを遮られました。
「おいN! なんでお前いつまでもビシャビシャなんだよ!!」
Nは、最後尾のSの前を走っていました。
そのNに渡したタオルは、水が滴るほどビシャビシャに濡れています。
「・・・ワカラ ナイ・・・ナンデ ダロウ・・・」
そう言うNを囲うようにして、フローリングの床には大きな水溜りができています。
私がその状況を把握しきれず、呆気に取られていると突然、手に持った携帯が鳴りました。
Sからの電話でした。
恐る恐る電話に出ると、Sは震える声で、こう言いました。
「もしもし。俺、今、警察にいるんだけど・・・Nが・・・橋の欄干にぶつかって・・・そのまま下の川に落ちて・・・し・・・死んだぞ!!」
「いや・・・でも・・・Nは今・・・」
私の上擦った声に異変を察したのか、その場にいた全員がNの方へ視線を向けました。
「お・・・おい・・・N。お前・・・死んだらしいぞ!!」
私の言葉に、Nは寂しそうに薄ら笑いを浮かべ、こう言いました。
「・・・ヤッパリ・・・ソウカ・・・」
そう言った瞬間、Nの身体から白い煙のようなものが出て、みるみる輪郭がぼやけていき、2、3秒で濡れたタオルと水溜りを残して消えてしまいました。
その後は全員で、Nが安置されている警察に向かうため、濡れたつなぎに慌てて袖を通し、バイクのある駐車場に降りると、Nのバイクを停めていたところだけが不自然に空いていました。