沈む気持ちを抑え、ダラダラとラジオ体操を終え、お菓子の列に並んでいる時、ふとあの大木の方を見ると、根元にショウジ君が座っているのが見えました。
僕は嬉しさのあまり、お菓子をかっさらうようにして奪い取ってから、ショウジ君の方に向かって猛然と駆け寄りました。
ショウジ君の足元まで駆け寄った僕は、逸る気持ちを抑え、装いきれるはずもない平静を装い、問いかけてみました。
「ショウジ君! 僕、マコト。 覚えてる?」
「マコト君! やぁ! 久しぶりだね! もちろん覚えてるよ」
そう言って立ち上がったショウジ君より、僕の方がずっと背が高くなったことが、何だか誇らしく思えました。
1年ぶりに再会した2人のブランクはあっという間に埋まり、帰省中の7日間、僕とショウジ君は会えなかった時間の埋め合わせをするかのように、毎日暗くなるまで目一杯遊びました。
その年の冬休みのことです。
祖父の具合が少し悪かったこともあり、年が明けたらすぐに、祖父母の家に行こうということになりました。
僕は祖父母に会えるのも楽しみでしたが、またショウジ君に会えるかもしれないことが、何よりも楽しみで仕方ありませんでした。
夏場ほどの渋滞もなく、スムーズに祖父母の家にたどり着くと、僕はすぐに祖母を捕まえて聞きました。
「ねぇ、おばあちゃん。 ラジオ体操は?」
祖母に、ラジオ体操は夏休みの間だけのイベントだと聞かされた僕は、少しがっかりしました。
翌日、薄っすらと雪が積もる道を歩き、誰もいない学校の中を除くと、あの大木の根元に、膝を抱えて座る人影が見えました。
「ショウジ君だ!!」
校庭を囲むフェンスをグルッと回り、校門から大木の根元まで走っていくと、それは間違いなくショウジ君です。
ただ、その姿に近づくにつれ、次第に違和感が大きくなり、自分でも段々と笑顔が消えて行くのを感じました。
ショウジ君のその服装は、あの真夏のラジオ体操の時、彼が着ていた白いタンクトップに紺色の短パンと、全く同じ服装なのです。
薄っすらと雪が積もる真冬のこの時期に、どう考えても不釣り合いな服装です。
「そう言えばショウジ君、去年も、おととしもあの格好だな・・・」
その上、座っているとは言え、その体つきはずいぶん小さく見え、初めて出会った2年半前から、全く変わっていないようでした。
改めて思い出すと、初めて出会った時のショウジ君と翌年の彼は、背格好が同じで、全く成長していません。
「ショウジ君・・・ ずーっとあのまま、あそこにいるんだ!」
今更ながらそう思った瞬間、何だか急に怖くなった僕は、走り出した足を止め、2,3歩後退りしてから踵を返し、一目散に祖父母の家まで走って帰りました。
走って帰る途中、ショウジ君に初めて出会った時の彼の言葉を思い出しました。
「気付いてくれてありがとう」
あれは・・・ そう言う意味だったのかも知れません。