神奈川県 相澤稔さん(30代・会社員)の恐怖体験談
自分で言うのもなんですが、私はいわゆる「メガネデブ」です。ただ、本当に困っていたのは体型そのものより、メガネの曇り方でした。人よりずっと、尋常じゃないくらい曇るんです。しかも、寒い外に出た時だけじゃない。暖かい部屋の中で、何もしていないのに、突然真っ白になることがある。原因はわからないまま、私はただ、太っている自分が悪いのだと思い込んでいました。
もともと大食漢ではあったんです。でも学生時代は運動部に入っていたので、食べた分はちゃんと消費できていた。太ってはいませんでした。
問題は、社会人になってからです。運動はほとんどしなくなったのに、食欲だけは学生時代のまま。気づけば就職して8年で、30キロ以上増えていました。
体重が増えたことで一番厄介だったのが、メガネです。冬、暖かい部屋から寒い外に出た瞬間にメガネが曇る。そんなのは誰でも経験があると思います。でも私の場合はそれだけじゃない。朝起きてメガネをかけただけで、あるいは会議中、ただ人の話を聞いているだけで、レンズが突然真っ白に染まることがあるんです。
曇り止めのスプレーも試しました。効果は続かない。コンタクトも相性が悪くて無理でした。結局、これは太っている自分のせいなんだと、半分諦めていたんです。だから私は、デブの中では珍しい、冬が嫌いなデブでした。
そんなくだらないことで悩んでいたある日のことです。
高校時代からの友人と、家で二人、酒を飲んでいました。ふと友人が、身を乗り出すようにして話しかけてきたんです。
「ミノル、知ってる? 今、ネットで噂になってるんだけど、幽霊がいるかどうか、確実にわかる方法があるんだってよ」
「へぇー。どうやんの、それ」
正直、大した興味はありませんでした。社交辞令で聞き返した、というくらいのものです。
でも友人は、嬉しそうに続けました。
「あのな、最初に独りきりになって、部屋の真ん中に立つんだよ。それで目を閉じて、携帯のカメラを胸の前で構える。外向きのカメラで録画しながら、その場でぐるっと一周回るの。そうすると、部屋の中が三六〇度、ぐるっと一周撮れるだろ? そしたら今度は、自分の顔と背景が映るように自撮りにして、また目をつぶって、同じようにぐるっと一周するんだよ。それで、撮れた動画を確認すると……映ってるんだってよ。霊が」
ネットの噂を、まるで自分で確かめてきたことのように話す友人に、私は少し呆れていました。そんなバカな話があるわけない、と。
その夜、いつもなら泊まっていく友人が、珍しく「帰る」と言い出しました。私は玄関まで出ず、部屋の中からそのまま見送る形になりました。
一人になった部屋。ふと、さっきの話を思い出したんです。くだらないとは思いながらも、なんとなく、試してみたくなった。
友人に教わった通りにやってみました。まず部屋の真ん中に立って、目を閉じ、外向きのカメラで一周。次に、自撮りに切り替えて、また目を閉じたまま、同じように一周。
その自撮りの最中でした。またメガネが、急に曇ったんです。
「なんだよこれ、メガネが曇った瞬間を撮っただけじゃんか」
そう思いながら、まず一本目の動画を確認しました。画面には案の定、何も映っていません。ただ、なんとなく、かすかに人の声のようなものが録れている気がしました。気のせいだと思おうとしました。
音量を最大まで上げて、二本目の動画を再生しました。
そこで、私のメガネが曇る原因が、はっきりとわかってしまったんです。
映っていたのは、私でした。目を閉じたまま、部屋の中で回っている自分。その顔から、わずか数センチのところに――唇を近づけている女がいました。
見たこともない女でした。気味の悪い笑みを浮かべたまま、私に向かって何かを喋りかけている。その口から吐き出される息が、私のメガネを白く曇らせながら、こう言っていました。
「……ハァ、バレタカ……」
気づいたら、部屋を飛び出していました。そのまま近所の漫画喫茶に駆け込み、一晩をそこで明かしました。翌日、近くの神社にお願いしてお祓いを受けると、あれほど頻繁だったメガネの曇りが、嘘のようにぴたりとおさまったんです。
あの女が誰だったのか、なぜ私にああして近づいていたのか、今もわかりません。
ただ一つだけ、確かなことがあります。急にメガネが曇る時は決まって、あの女が不気味な笑顔で、目の前にいたということです。


