埼玉県 中山大毅さん(30代・会社員)の恐怖体験談
中学2年の夏休みに、僕の人生を変えた出来事がありました。 それまでの僕は、地域でも悪名高い不良グループの一員でした。 今なら分かります。あの夜の出来事がなければ、僕はきっと、あのままの道を歩き続けていたと思います。
自分で言うのもはばかられますが、当時の僕は、反抗期真っ只中でした。
今思えば、両親が離婚して、生活を支えるために懸命に働く母が不在がちだったこと。その寂しさを、友人たちと一緒になって悪さをすることで、紛らわそうとしていたのかもしれません。学校にもろくに顔を出さず、夜な夜な仲間とつるんでは、意味もなく街をうろついているような毎日でした。
いつものように、真夜中過ぎに友人と街のはずれをふらふらと、あてもなく歩いていたときのことです。
道の傍らに、お地蔵さんが立っているのが目に入りました。
その頃、何にでもイライラしていた僕は、あろうことか、そのお地蔵さんの頭を、持っていた金属バットで思いっきり叩きました。
お地蔵さんの頭は、首の部分からポキッと折れました。ゴロゴロと鈍い音を立てながら、道路脇に転がっていきます。
それを見た友人は、さすがにやり過ぎだと思ったんでしょう。地面に落ちた頭を拾い上げ、元の身体の上に戻しました。
でも、僕はそれすら気に入りませんでした。
友人が戻した頭を、今度は上下逆さまにして、お地蔵さんの身体の上に置き直したんです。
そのあとは、行く場所もやることもなくなって、深夜2時頃、僕は家に帰りました。
母が寝ている時間でした。そっと玄関から自宅に「侵入」して、浴室に向かい、頭を洗います。
次に顔を洗っているときでした。
いつもと違う、手のひらの感触。
言い知れない違和感と、恐怖を感じました。
目の周りに付いた泡を洗い流して、鏡で確認しようと思い、慌てて顔にシャワーをかけたその瞬間――
物凄い勢いで、鼻の奥までお湯が入ってきました。
猛烈にむせました。
尋常じゃない咳き込み方に、母も目を覚ましたようです。脱衣所から声をかけてきました。
「ダイキ!! どうしたの? 大丈夫?」
「なんでもねぇよ!!」
いつものように横柄に言い返した僕は、曇って何も見えない正面の鏡を、片手で拭いました。
その瞬間。
「あっ!!」
思わず、大声をあげてしまいました。
鏡に映る自分の顔が――上下逆に付いていたんです。
慌てて風呂場を飛び出し、寝室に戻ろうとしていた母の後ろ姿に向かって叫びました。
「かぁちゃん!! 顔が!! 俺の顔が!!」
母が慌てて戻ってきて、僕の両肩を掴みました。
「何? 顔が? どうしたの?」
母は、僕の顔には何の異常もないと言うんです。
でも、自分の手で確かめると、間違いなく、おでこに口があって、鼻は逆さまで、両頬に目が付いています。
引き出しから手鏡を引っ張り出して確認しても、やっぱり、顔が逆さまなんです。
パニックになって泣きじゃくる僕を、母は懸命になだめながら、僕がおかしな薬でも使ったんじゃないかと疑い、すぐに救急病院へ連れて行きました。
病院での薬物検査の結果は、もちろん全て陰性でした。それ以外にもCTだ、血液検査だと、いろいろな検査や診察を受けましたが、これといった原因は見つかりません。数日経ってから、医者が半ば無理やりつけた病名は「顔面神経麻痺」というものでした。
それでも、手で触れば分かるんです。おでこに口があって、鼻が逆さまで、頬に目がある。その感触だけは、はっきりと覚えています。
それでも、この原因になったであろう自分の行動を、さすがに隠しておくわけにはいかないと思いました。
僕は母にだけ、事の顚末を話しました。
そして、首を折ったあのお地蔵さんを管理しているお寺まで、母と一緒に謝りに行きました。
それからというもの、僕は気味の悪い自分の顔と、おでこから飲み食いするような奇妙な感覚を、半年ほど強いられることになりました。
でも、その感覚がなくなってからも――
僕が、以前のような悪さをすることは、一度もありませんでした。


