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空飛ぶ…

空飛ぶ…

京都府 花田俊二さん(40代・会社員)の恐怖体験談

今から二十年以上前の話です。それでも、あの光景だけは、今でも鮮明に覚えています。

当時、私は高校受験を控えていて、ほぼ毎日、塾に通っていました。

その夜も、バスの最後尾に座って、美しい街並みに目を向けることもなく、ずっと手元の参考書に目を落としていたんです。

ふと気がつくと、降りるはずのバス停を一つ、過ぎてしまっていました。

慌てて降車ボタンを押し、次のバス停で降ります。

反対側のバスに乗り直そうかとも考えましたが、次のバスがいつ来るのか分かりません。仕方なく、そこから歩いて帰ることにしました。

連日の塾通いで、体はもうくたくたでした。一刻も早く帰りたかったのに、たった一駅とはいえ無駄に歩かされるはめになって、正直、うんざりしていました。

その日は特に蒸し暑くて、まとわりつく空気が、まるで水の中を歩いているみたいに重く感じられたのを覚えています。

バス通りをしばらく戻ると、右手に大きな公園が見えてきました。

少しでも早く帰りたかった私は、その公園を突っ切ってショートカットすることにしました。

歩道から公園の中に入った途端、街灯の数がぐっと減ります。

足元が見えにくくなるほど薄暗い、曲がりくねった遊歩道が続いていました。

その日、塾の現代文の先生が教えてくれた言葉を、ふと思い出しました。受験にはまず出ないだろうけど、と前置きしながら教えてくれる、難しくて素敵な四字熟語です。

その日習ったのは「蛙鳴蝉噪(あめいせんそう)」。蛙や蝉がやかましく鳴き騒ぐことから、内容のない議論をやかましくしゃべり立てることをあざける言葉なのだと、先生は言っていました。

「まさに『蛙鳴蝉噪』やな……」

寝不足の頭に追い打ちをかけるように、その年大量発生していた蝉の鳴き声と、まとわりつく蒸し暑さで、歩きながら軽く眩暈がしそうでした。

家までの最短距離を通ろうと、遊歩道を時々逸れて、芝生の広場の方へ直進していきます。

そのとき。

広場の先に、ぼんやりと明るい光が、宙に浮いているのが見えました。

不思議に思いながら、ゆっくりと近づいてみました。

縦が三十センチ、横幅が六十センチほどの、青白く光る物体でした。

街灯の見間違いなどではありません。それは、完全に宙に浮いていました。

形は、頭の丸くてツバの広い女性用の帽子を、上下に二つ合わせたような形をしています。

当時はまだドローンなんてものはありませんでした。想像していたよりずっと小ぶりでしたが、私は「ついにUFOを見た!」と、喜びが爆発しました。

タイミングよく、これもついさっき塾で習ったばかりの「欣喜雀躍(きんきじゃくやく)する」という言葉に、まさにぴったりの気分でした。

よく観察してみると、その物体は青白く発光しながら、高速でぐるぐると回転しているようでした。

数十秒か、数分間か。とにかく、かなり長い時間、私は釘付けになって観察を続けていました。

すると、次第に回転速度が落ちてきたんです。

何が回っているのか、少しずつ見えるようになってきました。

よく見ると、それは。

ざんばら髪が遠心力で左右に広がった、落ち武者の生首でした。

正体が分かった瞬間、回転速度が急に落ちました。

ピタッと私の方を向いたまま、宙に浮いた生首が静止しました。

苦悶に満ちた表情で、それは私を睨みつけてきました。

怖くなった私は、一目散にその場から走って逃げました。

すると、あれほど騒がしかった蝉の鳴き声が、パッと止みました。

そして、後ろから。

「待て待て!本当の見せ場はここからだぞ!」

荒々しい、獣のような咆哮が聞こえたんです。

私は振り返ることもできず、一目散にバス通りまで転がり出ました。

恐る恐る、公園の中を振り返ってみました。

光る生首は、もう、どこにもありませんでした。

それ以来、昼間でも、あの公園の中を通ることは、一切なくなりました。

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