栃木県 橋本英治さん(30代・会社員)の恐怖体験談
3回目の肝試しは、いつもと同じように始まりました。
ーーでも、屋上で見たものだけは、いつもと違ったんですーー
今から20年近く前のことです。
友人A、B、Cと私の4人で、肝試しに行くことになりました。
いつもつるんでいる、悪友グループです。
行き先は、車で20分ほど走った先にある、地元で有名な廃病院でした。
私はそこへ行くのが3回目で、正直、あまり気が進みませんでした。 でも、見渡す限り山と田畑ばかりのド田舎に住む、女っ気もない私たちにとって、そこは格好の遊び場だったのです。
「元は精神病院だった」
「関東最大の廃病院」
「呪われた廃病院」
「秘密の地下室がある」
そんな噂が、あれこれとありました。
今思えば、どれも信憑性はイマイチです。
当時はやっと携帯でメールができるようになった頃で、インターネットよりも口コミの情報が主流でした。
友人の車を近くに停めて、懐中電灯の明かりを頼りに、真っ暗な藪の中を100メートルほど歩いていくと――
パッと視界が開けて、正面に、異様な存在感を放つ廃病院が建っていました。
3階建てで、屋上つき。
心霊スポットとしては、かなり趣のある佇まいです。
私も初めて来た時は「怖い」と思いました。 でも何しろ3回目ですし、今まで一度も、怖い経験なんてしたことがありません。
だから、他の3人に比べると、少し冷めていたと思います。
藪を抜けて建物の入口の前まで来た時、私はあるアイデアを思いつきました。
4人一緒に入るのはつまらないので、一人ずつ順番に入って階段を登り、屋上に着いたら、上から次の奴を呼ぶ。
そういうルールです。
私以外の3人は、ここに来るのが初めて。
きっと、怖さも倍増するはずです。
我ながら、良いアイデアだと思いました。
じゃんけんで順番を決めて、最初に入ったのはAでした。
「おい、このままAだけ置いて、帰っちゃおうか」
下で待つ3人でそんな冗談を言っていると、思ったより早く、
「おーい!」
Aの声が聞こえてきました。
見上げると、手を振るAの隣に――
何人か、黒っぽい人影が見えました。
「やっぱり、他にも人がいたんだな」
実はこの廃病院、当時はまだ建物の中にカルテや医療器具が散乱していて、それなりの雰囲気があったんです。
でも、それが噂になって、地元の若者だけじゃなく、県外からの「観光客」にも人気の、心霊スポットならぬ「観光スポット」になってしまっていました。 週末になると、何十人もの人が大挙して押し寄せる状態だったんです。
「ちぇっ、平日でも人がいるのか。つまんないな」
そう思いながら、Aに呼ばれて、続いてBが屋上へ向かいました。
しばらくすると、屋上から声がしました。
「おーい!」
Bの声です。
見上げると、さっきより人影が、さらに増えています。
6、7人……いや、10人ほどいたでしょうか。
続いて、Cが建物に入っていきました。
残されたのは、私一人です。
「あんなに人がいたんじゃ、ちっとも面白くないな」
そう考えていると、
「おーい!」
Cの声が聞こえてきました。
屋上を見上げると――
さっきよりも、もっと大勢の人影が、ウロウロと歩いていました。
私も入口から入りました。
落書きだらけの壁を横目に、登り慣れた階段を上って、屋上に出ると――
そこには、A、B、Cの3人しか、いませんでした。
「あれ? 他にもっと……たくさん人が……いなかったか?」
4人で顔を見合わせた瞬間でした。
一人が、慌てて走り出しました。
残りの3人も、すぐに続いて出口へ向かい、転げ落ちるようにして階段を駆け降り、建物を飛び出して、もと来た藪道へと一目散に走りました。
藪道に差しかかったところで、4人で立ち止まって、振り返りました。
屋上には――
何十人もの、黒い人影がいました。
「おーい! おーーい!! おーーーい!!!」
そう呼びながら、手招きしていたんです。
我先にと藪の中を猛ダッシュして、車に飛び乗りました。
近くのコンビニの駐車場まで逃げ込み、そのまましばらく呆然としながら、4人で朝を迎えました。
それ以来、4人とも、二度とあそこに近づいたことはありません。
あの廃病院は、今でも存在するそうです。
ネットで調べれば、その情報はいくらでも出てきますが――
行かないほうが良いと、思いますよ。


