東京都 杉田恵子さん(20代・保育士)の恐怖体験談
皆さんの学校にも、「学校の怪談」ってありませんでしたか? トイレの花子さんとか、動き出す理科室の人体模型とか。 私の通っていた小学校には、「4年生にだけ見える幽霊」という話がありました。 ただの噂です。本当に見たという人は、上級生も含めて誰ひとりいませんでした。
新学期が始まったばかりの頃です。
私の小学校は、都内の住宅街の中にある、少し変わった造りの学校でした。
校門を入って左側の坂を上りきると、重い灰色の鉄製の扉がある玄関が広がっていて、その奥に学年別の靴箱がずらっと並んでいます。靴箱の間には傘立てがあり、そこをさらに奥へ抜けると、中庭のような校庭がありました。校庭の周りを、体育館と3階建ての校舎が、ぐるりと取り囲むような造りです。
その日は確か、梅雨入りして間もない頃でした。
両親とも仕事が遅くなると分かっていたので、私は学校の中にある「子供ひろば」で時間をつぶし、夕方5時を過ぎた頃、帰路につきました。
学校を出てすぐ、同じマンションに住む5年生のAちゃんに会いました。金管楽器クラブに入っているAちゃんは、いつもこの時間に帰るそうで、そのまま一緒に帰ることになりました。
部活の話や、担任の先生の話。他愛もないおしゃべりをしながら歩いて、家までの道のりを半分ほど過ぎた頃です。
ポツ、ポツ、と雨が降り出しました。
そのとき、朝持ってきた傘を、学校に置き忘れてきたことに気づいたんです。
その日の朝、母に「帰りに傘を忘れないで持って帰りなさいね」と、念を押されたばかりでした。忘れて帰れば、きっと叱られます。
傘を取りに戻るから先に帰っていいよ、とAちゃんに言ったのですが、Aちゃんは「一緒に行ってあげる」と言ってくれて、二人で学校へ引き返すことになりました。
どんよりと黒い雲が空を覆う中、校門から坂を上って玄関に入ると――
電気が消えていて、薄暗いんです。
昼間はあれだけ賑やかな学校なのに、物音ひとつしません。廊下の奥まで、しんと静まり返っています。
いつもの学校とは、まるで違う雰囲気でした。
急に怖くなって、小走りで傘立ての一番奥にある自分の傘を取りに行った、その瞬間でした。
大きな雷の光と音が、あたりを切り裂きました。
思わず悲鳴を上げて、その場にしゃがみ込んでしまいました。
恐る恐る、顔を上げたときです。
校庭を囲む校舎の、全部の窓から――
何百人という子供たちが、お互いを押しのけるようにして顔を出し、こちらを見ていました。
全員が、私を見ていたのです。
あまりの光景に、しばらく体が動きませんでした。
すると、次の瞬間。
子供たちが一斉に窓から顔を引っ込めたかと思うと――
「ドドドドドドッ!!」
地響きのような音を立てて、校舎の中の階段を駆け下りてくる気配。
何百人もの子供たちが校庭に走り出て、こちらへ向かって押し寄せてきたのです。
「キャーーーーーーッ!!」
持っていた傘を投げ捨て、私はAちゃんと一緒に学校を飛び出しました。振り返る余裕なんてありませんでした。雨に濡れるのも構わず、そのまま家まで一気に駆け抜けました。
マンションの入り口に着いて、息を切らしながら聞きました。
「Aちゃん・・・ さっきの見た? あれ、ナニ?」
でも、Aちゃんはきょとんとしていました。何のことか、さっぱり分からない様子です。私が突然悲鳴を上げて走り出したから、わけも分からず一緒に走ってきただけだと言うのです。
それを聞いた瞬間、「4年生にしか見えない幽霊」の噂が頭をよぎりました。
ますます、怖くなりました。
その後、傘を学校に忘れたことで、母にはネチネチと叱られました。でも、そんなことはどうでもいいくらい、あの光景が頭から離れませんでした。あの日の夜は、なかなか寝つけなかったのを覚えています。
翌日、学校でクラスメイトに昨日の出来事を話すと、しばらくの間、ちょっとした人気者になりました。
そしてあれ以来、私は学校に傘を置き忘れることが、一切なくなりました。


