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何が満開?|桜の中に娘だけが見たもの【実話怪談・怖い話】

何が満開?

静岡県 遠藤美里さん(30代・主婦)の恐怖体験談

2歳になったばかりの娘が、桜の季節にふと口にしたひと言。 それが、あんな光景につながっていくとは、思ってもいませんでした。

2歳になったばかりの娘は、覚束ない足取りながらも走れるようになり、外遊びが楽しくて仕方がない時期でした。玄関に出るとぴょんぴょん跳ねて喜ぶので、なかなか靴を履かせられないほどです。言葉もぐんぐん増えて、私の言い回しやテレビで聞いたセリフを、そのまま真似するようになっていました。

まだ舌足らずな喋り方が、たまらなく可愛らしい時期でした。かわいい盛りの娘との、そんな小さな幸せを噛み締める毎日を送っていた、ある日のことでした。

テレビから、桜前線のニュースが流れてきました。関西のほうでは「桜が満開です」と伝えています。それを聞いていた娘が、私の顔を見上げてこう言ったんです。

「ママ! シャクラがマンタイよ!!」

たどたどしいその口調がおかしくて、私は思わず笑ってしまいました。せっかくだからと、翌日、近所の公園まで桜を見に行くことにしたんです。

歩いて10分ほどのその公園は、季節ごとの花や鳥の声が楽しめる、娘も私もお気に入りの場所です。近隣では知る人ぞ知る桜の名所で、その日も暖かい日差しに誘われたのか、平日にもかかわらず大勢の人で賑わっていました。子供を遊ばせる家族連れや、ベンチでお弁当を広げるお年寄りの姿もあって、あたりにはのどかな空気が漂っていました。

ただ、この公園には、ちょっと気になる噂もあるんです。

昼間はあれほど気持ちのいい場所なのに、夜になると雰囲気がガラリと変わる、というのです。

これだけの桜があれば、禁止されていない限り、シートを敷いて夜桜を楽しむ人がいてもよさそうなものです。でも、夕方を過ぎる頃には、なぜかほとんど人が寄り付かなくなってしまいます。

戦時中、この場所には軍関係の施設があって、人体実験で大勢の民間人が犠牲になったとか、空襲で多くの人が亡くなったとか――そんな噂を、私はネットで見かけたことがありました。

真偽のほどは分かりません。でも、日が沈んだあとにあの公園の前を車で通り過ぎると、あれだけ立派な桜並木があるのに、街灯もまばらで、ひっそりと静まり返っています。昼間とはまるで違う陰気な空気を思い出すと、そんな噂が生まれるのも分かる気がしたんです。

娘とその公園に着いたのは、お昼前でした。

穏やかな日差しに誘われるように、桜の開花もすっかり進んでいて、もうほとんど満開と言っていいほどでした。風が吹くたびに花びらがふわふわと舞い、娘はそれを追いかけようとして、何度も転びそうになっていました。

桜を見上げながら、娘は嬉しそうに小さな手を振っています。私も釣られて言いました。

「きれいねぇ、マイちゃん! 桜、満開だね!」

すると娘は、目を輝かせてこう答えたんです。

「うん! マンタイ! ほら! オカオマンタイ! オカオがマンタイ!!」

そう言って、桜の木を指差しました。

「マイちゃん、『オカオ』って何? 桜のこと?」

娘は首を振って、懸命に桜の木を指差しながら、繰り返しました。

「ちわう! ちわうの! お・か・お! ”お顔”がマンタイなの!! みんなこっち見てるね!!」

その言葉を聞いた瞬間、私は言いようのない不安に包まれました。

うまく説明できないのですが、膝の力が、すっと抜けていくような感覚があったんです。

娘には、実はこれまでにも、気になる仕草がありました。

何もない空中をじっと見つめて、嬉しそうに手を振ったり、微笑んだりすることがあったんです。誰もいないほうに向かって「バイバイ」と言うこともありました。散歩の途中、突然何かに怯えたように、私の後ろに隠れてしまうことも。

そのたびに、この子には、普通の人には見えない何かが見えているのではないか――そう思うことがありました。

でも、そう考え始めると私まで怖くなってしまうので、その思いは、その都度、心の奥にしまい込んでいたんです。子育ての忙しさに紛れて、深く考えないようにしていた、というのが正直なところかもしれません。

あの日、公園で桜を見上げていた娘の目には――

満開の桜の木に咲いた、無数の「お顔」が、見えていたのかもしれません。

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