【サイト統合のお知らせ】「怪談カフェ(kaidan.cafe)」は「【最恐】実話怪談ファイル(afreet.jp)」へ統合・リニューアルいたしました!

ケンケンパ|深夜の屋上から響く足音【実話怪談・怖い話】

ケンケンパ

東京都 相川了さん(20代・飲食店従業員)のソワ〜っとする怖い話

それは、一昨年の夏の話です。

尊敬する先輩に、あるアドバイスをもらいました。

「今の自分の実力よりちょっといい所に住むと、それに合わせて仕事ができるようになるぞ」

その言葉をすっかり鵜呑みにした私は、思い切って、ちょっと贅沢なマンションに住み替えることにしたんです。今にして思えば、単純だったと思います。でも当時は、それくらい先輩の言葉を信じていましたし、実際に憧れてもいたのです。

高所恐怖症、とまではいかないものの、正直、あまり高い場所は得意ではありませんでした。それでも先輩のアドバイスに従って、都心の風景が見渡せる高層マンションの、最上階の物件を契約しました。窓の外に広がる夜景は、確かに見事なものでした。

そのマンションの最上階の住人は、ほとんどがファミリー世帯でした。一人暮らしなのは、どうやら私だけのようです。エレベーターで一緒になるのも、いつも小さな子供連れの家族ばかりでした。

珍しく、屋上に出ることができるマンションでもありました。ただ、私は最上階に住んでいるので、わざわざ上がらなくても、室内からほぼ同じ景色が見られます。そんなわけで、屋上に足を運ぶことは、入居してからほとんどありませんでした。

入居から、1年ほど経ったころのことです。

数日前から体調が悪く、熱もあったので、しばらく仕事を休んで家で寝ていました。飲食店の仕事は体力勝負ですから、こういうときはとにかく安静にするしかありません。カーテンを閉め切った部屋で、うとうとと浅い眠りを繰り返していました。

すると、夜になると毎晩、天井からパタパタと音がするのです。

天井から聞こえるということは、屋上で誰かが音を立てているということになります。

その音は、どこかから響いてくるというよりも、まさに今寝ている寝室の、真上から聞こえていました。天井をじっと見上げながら、そんなことを考えていたのを覚えています。

軽い音でしたから、おそらく子供の足音だろうと思いました。

時計を見ると、時間は深夜1時を回っています。

こんな夜中に子供を屋上で遊ばせるなんて、ずいぶん非常識な家族が住んでいるものだな。熱でぼんやりした頭で、そんなことを考えていました。文句の一つも言ってやろうか、とも思いましたが、その日はそのまま眠ってしまいました。

タッ・タッ・トン! ・・・タッ・タッ・トン! ・・・タッ・トン! タッ・トン! タッ・タッ・・・・・

布団の中で耳を澄ませながら、何度も何度もその音を聞いているうちに、何をして遊んでいるのか、なんとなく分かってきました。

タッ・タッ・トン! ・・・タッ・タッ・トン! ・・・タッ・トン! タッ・トン! タッ・タッ・・・・・

その音は、懐かしいケンケンパの音でした。

昔はよく、地面に丸を書いて、友達と遊んだものです。片足でケンケン、両足でパッ。単純なのに、何度やっても飽きなかったのを覚えています。

タッ・タッ・トン! ・・・タッ・タッ・トン! ・・・タッ・トン! タッ・トン! タッ・タッ・・・・・

最初は、その懐かしさに、少し心が和んでいました。子供の頃、近所の友達とよくやったなと、布団の中で懐かしく思い出したりもしました。でも、何度も何度も繰り返し聞かされるうちに、次第に耳障りに感じられてきたのです。

タッ・タッ・トン! ・・・タッ・タッ・トン! ・・・タッ・トン! タッ・トン! タッ・タッ・・・・・

そのうえ、ケンケンパの最後の「トン!」が、毎回、抜けていることに気付いてしまいました。

それに気付いてからというもの、何だか余計に気持ちが悪くなってきました。たった一音、抜けるだけなのに、そこだけがやけに不自然に感じられるのです。体調不良も相まって、イライラが少しずつ募ってきました。

タッ・タッ・トン! ・・・タッ・タッ・トン! ・・・タッ・トン! タッ・トン! タッ・タッ・・・・・

「チッ! うっせぇなぁ!」

とうとう、イライラがピークに達しました。屋上で遊んでいる子供に一言、注意してやろう。そう思い立ち、ベッドから身体を起こしました。頭がぼうっとして、視界が少し揺れます。それでも、熱でフラつく足取りのまま、屋上へと向かいました。

非常階段の手すりに掴まりながら、ふうふう言って上りきり、屋上の鉄扉を開けます。夜風が、火照った顔にひんやりと当たりました。

案の定、小学校低学年くらいの男の子が、一人でケンケンパをして遊んでいました。街灯の薄明かりの中、その姿がぼんやりと浮かび上がって見えます。

「ねぇ、ボク。もう夜だから、ちょっと静かにしてくれないかな」

そう声をかけかけた、そのときです。

ちょうどケンケンパの最後の一歩で――その子は、ヒョイッと鉄柵を飛び越えて、屋上の外へと飛び出したのです!

「ウワッ!! マジか!!」

慌てて鉄柵まで駆け寄り、身を乗り出して下を覗き込みました。

地上の光が、はるか下の方に、小さく散らばって見えます。子供の姿は、もうどこにもありませんでした。

目も眩むような高さに、思わず鉄柵を掴んだまま、その場でへなへなと、腰が抜けたように尻餅をついてしまいました。

すると――

背後に、誰かの気配がしました。

子供のものと思われる顔が、私の右肩の上に、ポンと顎を乗せてきました。

そのまま、耳元で囁いたのです。

「ネェ、イッショニアソボウ」

その声を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になりました。

私は一切後ろを振り返ることなく、猛ダッシュで自分の部屋まで駆け戻りました。

階段を、何段飛ばしで下りたのかも覚えていません。部屋のドアに鍵をかけたところで、息が上がっていることにようやく気付きました。心臓が、耳の奥でドクドクと鳴っています。

履いてきたサンダルが、片方無いことにも気付きました。でも、そんなことは、もうどうでもよかったのです。

「ピンポーンって来たらどうしよう!」

「ベランダに飛び降りて来たらどうしよう!」

そんなことばかり考えてしまい、気が気ではなくなりました。布団を頭からかぶって、ただ朝が来るのを待ちました。結局、その晩は一睡もできませんでした。

翌日、まだ本調子ではない身体を引きずるようにして、ホームセンターへ行き、自腹でデッキブラシを買ってきました。屋上に描かれた丸を、一つ残らず消して回り、塩を撒きました。

そのとき、気付いたことがあります。

丸の並びを目で追っていくと、ケンケンパの最後にあるはずの、二つの丸だけが見当たりません。それは、鉄柵を超えた屋上の向こう側に、はみ出していました。

あの子は、最初から、そこにいるはずのない場所を目指して、跳んでいたのかもしれません。デッキブラシを持つ手が、そう考えた瞬間、止まりました。

それ以来、あの少年は――「もうこのマンションには、遊んでくれる人がいない」とでも思ったのでしょうか。

ケンケンパの音は、ぱたりと聞こえなくなりました。

それでも今でも、夜中にふと目を覚ますと、天井をじっと見つめてしまう癖だけは、抜けずに残っています。あの日から、屋上に続く扉には、一度も近付いていません。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!