東京都 青木康夫さん(20代・大学生)の恐怖体験談
サークルの友人5人と仮装して繰り出した、ハロウィンの渋谷でのことです。
この時期の渋谷は、その人手がニュースになる程の賑わいです。
その年も、コスプレした人、ペイントだけの人、着ぐるみの人でごった返していて、あちこちで写真を撮り合う声や、はしゃぐ声が響いていました。
私たちも仮装をして、その人混みに紛れていました。
楽しそうな騒ぎの向こうに、ふと目に留まったのが、あの女性でした。
一人、ポツンと立っていたんです。
行き交う人波の合間に、時々見え隠れする姿。
薄汚れた白っぽい、季節外れの半袖ワンピース。
ーー貞子だ!ーー
そのクオリティーの高さは、ちょっと目を引きました。
顔の前には、長い黒髪がだらりと垂れ下がっていて、表情はまったく見えません。
足元を見ると、裸足です。
ペイントしただけ、被り物をしただけの適当な仮装とは、明らかに違う空気がありました。
私は隣にいた友人の肩を叩いて、指をさしました。
「おい、あの娘見てみろよ。この寒いのに半袖、裸足だぜ。今どき貞子の仮装か? 気合入ってるよなー」
友人たちは、私が指さすほうを探しました。
でも、なぜか、誰一人、彼女の姿を見つけられません。
「どこよ! どこによ!」
「あそこだよ、ほら、あの赤い看板の店の前……あれ?」
言いながら指さす自分の指の先を、私も見ました。
いない。
さっきまで確かにそこにいたのに。
その瞬間でした。
キーン、と耳鳴りがしました。
あたりが、急に静かになった気がしたんです。
あんなに騒がしかった渋谷の人混みが、まるで一時停止したみたいに、ぴたりと動きを止めたように感じました。
そのとき。
耳元で、声がしました。
「それ、ワタシのこと?」
囁くような、すぐそばからの声でした。
一瞬、体が固まりました。
でも、すぐに振り返りました。
そこには、誰もいませんでした。
気づけば、あたりはもう、元の喧騒に包まれていました。
人々のざわめき、笑い声、シャッター音。
いつもの、賑やかな渋谷のハロウィンでした。
ハッピーハロウィーン。


