宮崎県 結城美穂さん(20代・大学院生)の恐怖体験談
あの夢を、何日も続けて見ていた意味を、私は今もはっきりとは説明できません。
ただ、あの夢を見なくなった翌日に、何が起きたかだけは、覚えています。
当時、中学2年生だった私は、卒業準備委員をしていました。
3年生の卒業式を翌週に控え、その準備で忙しい毎日を送っていたんです。
お世話になった先輩たちに、少しでも喜んでもらいたくて。 朝は早めに登校して、夕方は暗くなるまで作業する。そんな日が続いていました。
連日の疲れが溜まっていたんだと思います。
卒業式本番の5日前、日曜の夜のことでした。
とてもリアルで、恐ろしい夢を見たんです。
夢の中の私は、いつものように卒業式の準備のため、少し早起きしていました。
朝食のシリアルを手に取ろうとして――
うまく、取れません。
「あれ? おかしいな」
自分の手を見て、気づきました。
左右の腕が、肩から逆に付いているんです。
初めは怖くて大騒ぎしました。 必死に母に訴えても、
「そのうち元に戻るわよ」
軽くあしらわれて、取り付く島もありません。
それでも夢の中の私は、「卒業式の準備に行かなきゃ」と思って。 左右反対の手で不自由に朝食を食べ、顔中に歯磨き粉をつけながら何とか歯を磨いて、おぼつかない手で身支度を整え、フラフラと自転車で学校に向かいました。
学校に着くと、なぜかもう、体育館の中で卒業式が始まっていました。
よりによって本番の日に遅刻した私は、申し訳なさで小さく身をかがめながら、パイプ椅子の間をすり抜けて、自分の席にたどり着きました。
厳粛な空気の中、号令がかかります。
「在校生、起立!」
一瞬遅れて、私も立ち上がりました。
「卒業生、入場!」
在校生は、花道を通る卒業生に向かって、拍手を送ります。
でも私だけ、もじもじと戸惑っていました。
手が左右逆だから――拍手が、できないんです。
「どうしよう……これじゃ拍手できない……困ったな……」
そう思っていると、隣にいたAさんが、私の手の異変に気づいて言いました。
「美穂! そのまま拍手したら『裏拍手』になっちゃうよ!」
少し前、テレビのホラー特集で聞いた話を思い出しました。
裏拍手というのは「死者の拍手」と呼ばれるもので、手のひらではなく、手の甲を打ち合わせる拍手。死者からの手招きを意味する、縁起の悪い仕草だそうです。
何とか手をねじって、普通の拍手をしようとしました。
でも、やっぱりうまくいきません。
すると、戸惑う私を見て――
周りにいた在校生全員が、突然、輪になって私を取り囲みました。
「こうすればいいんだよ! こうすればいいんだよ!」
そう言いながら、みんなが一斉に、私に向かって裏拍手をして見せるんです。
「怖い! みんなやめて!!」
恐怖で頭を抱えて、目をつむり、その場にしゃがみこみました。
しばらくすると、拍手の音が、ぴたりと止みました。
しゃがんだまま、恐る恐る顔を上げました。
私を取り囲んでいたはずの在校生は――
いつの間にか、全員、見知らぬ大人に変わっていました。
おじいさん。おばあさん。工事の人。漁師さん。コックさん。パン屋さん。サラリーマン。子供と、その母親らしき人。
誰一人、知った顔がいません。
その人たちは、みな一様に、真っ黒な泥と油にまみれていました。 体はグショグショに濡れていて。
そして、微動だにせず、無言のまま、じっと私を見つめています。
何より怖かったのは――
その全員が、無表情のまま、胸の前で手の甲を合わせていたことでした。
あまりにもリアルで恐ろしい夢だったので、3月のまだ冷え込む季節だというのに、私は汗びっしょりになって、泣きながら飛び起きました。
それからというもの、毎晩、同じ夢を見続けるようになりました。
精神的に、少し参っていたと思います。
母親に相談しても、
「毎日遅くまで卒業式の準備で疲れてるんでしょ。早めに寝たら?」
その程度の返事で、真面目に取り合ってもらえません。
「そこは夢と同じ、けんもほろろなんだ……」
そう諦めるしかありませんでした。
それから数日が経って、卒業式を明日に控えた午後のことでした。
私たちは体育館で、飾り付けの最終確認をしていました。
その時、突然――
下から突き上げるような、縦の揺れが来ました。
すぐに、激しい横揺れに変わって。
立っていられないほどの揺れが、しばらく続きました。
体育館全体がギシギシときしんで、このまま建物ごと壊れるんじゃないかと思った、あの恐怖は、今でもはっきり覚えています。
幸い、私の学校で犠牲になった人はいませんでした。
でも、あの震災で、小学校時代の友人や、その家族が何人も、命を落としました。
あの時見た怖い夢と、あの震災に、何か関係があるのかはわかりません。
でも、もし普段見ないようなリアルで怖い夢が、何日も続くようなことがあったら――
それは、何かの前兆かもしれません。
どうぞ、気をつけてください。


