気がきく彼女

今まで経験したことのない、ハラワタがねじれかえるような激痛でした。

かろうじて自分で救急車を呼び、病院で検査をしたところ、『イレウス(腸閉塞)』だと診断されました。

鼻からチューブを入れ、腸の内容物を吸い出す治療を行うと、ゴミやビニール片に混じった、黒く長い髪の毛が、両手に一杯ほど出てきました。

お医者さんには「キミ、一体何食べたの?」と不思議がられましたが、当然、身に覚えなどありませんでした。

救急搬送されたことを聞きつけ、田舎から母親が血相を変えて飛んできましたが、その時にはもう痛みもなく、ベッドで暇を持て余しているような状態でした。

母には仕事があったので、せめて部屋の掃除だけでもという申し出も断り、早々に帰郷してもらいました。

その時、母は俺の身を案じて、「しばらくは首からぶら下げていなさい。」と、地元の神社で買ったお守りを渡してくれました。

お守りの効果もあったのか、治療後の経過も良く、幸い2日ほどで退院できました。

退院の日、アパートに着いたのは夕方4時頃でした。

「そういえば、ユイちゃん、俺がいない間も来てたのかな。心配してるんじゃないかな。」そう思いながらアパートのドアを開けた瞬間、その光景に愕然としました。

部屋の中はゴミが散乱し、まるで廃墟のような状態になっていたのです。

部屋の中だけではありません。キッチンや押し入れ、トイレに浴室、洗濯機の中にまで、ありとあらゆるところに、病院で自分の身体から吸引されて出てきたものと同じ、ゴミと埃にまみれた長い髪の毛が落ちているのです。

それを見た瞬間、背筋に冷たいものが走り、俺は思わず胸元のお守りを握り締めました。

「俺は・・・これを喰って・・・喰わされていたのか・・・?」

俺は拾い集めた髪の毛の塊を見ながら、一番考えたくない結論に辿り着かざるを得ませんでした。

「ユイちゃんが・・・これを・・・俺に?」

片付けが終わった頃、ふと時計を見ると、夜9時を回っていました。

その時、ドアチャイムが鳴りました。

「ユイちゃんだ!」

その瞬間、俺は音がしないようにドアの鍵をかけ、玄関から一番遠い部屋の隅に隠れました。

すると、ピンポンピンポンピンポン!!

激しくドアチャイムを鳴らしたかと思うと次の瞬間、ドンドンドンドンドンドンドン!

ドアが外れてしまいそうなほど、ものすごい力でノックしてきたのです。

俺は目をつむって両手で耳を塞ぎ、祈るようにして彼女がいなくなるのを待っていました。

しばらくしてノックの音が止み、恐る恐る覗き窓から外を見てみると、そこには誰もいませんでした。

ホッとして振り返った瞬間、目の前で髪の毛を逆立て、鬼の形相の彼女が、アパート全体が揺れるような大声で

「ワタシノ カミ タベテヨ!!!」

俺はそのまま朝まで、玄関で気を失って倒れていました。

翌朝、玄関で目が覚めた俺の手には、母からもらったお守りが、しっかりと握られていました。

結局、ユイちゃんが人間だったのか、それとも他のものだったのか、そしてなぜ、俺をあんな目に合わせたのか、未だに分からないまま、今は別のアパートを借りて住んでいます。